大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)397号 判決

愛知県大府市梶田町三丁目一三〇番地

原告

株式会社名南製作所

右代表者代表取締役

長谷川克次

右訴訟代理人弁護士

安原正之

同 同

佐藤治隆

同 同

小林郁夫

同弁理士

石田一

同 同

石田喜樹

同 同

宮崎一男

神奈川県横浜市港北区新羽町六六二番地

被告

南機械株式会社

右代表者代表取締役

太田正之

右訴訟代理人弁護士

吉井参也

同 同

高村一木

右当事者間の標記事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  特許庁が昭和五四年審判第一四七二一号事件について昭和五五年一一月一一日にした審決を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「単板自動截断選別装置」とする発明に係る第九二三六七六号特許(昭和四三年五月二七日特許出願、昭和五一年六月一二日出願公告決定の謄本送達、同年九月一六日出願公告、昭和五三年九月二二日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者であるところ、被告は、昭和五四年一一月三〇日、原告を被請求人として本件特許につき無効審判を請求し、昭和五四年審判第一四七二一号事件として審理された結果、昭和五五年一一月一一日「本件特許は無効とする。」との審決があり、その謄本は同年一二月一一日原告に送達された。

二  本件発明の要旨(昭和五一年五月七日付手続補正書による補正後の特許請求の範囲の記載)

単板6を搬入、搬出の両コンベア9、9'により、搬送しつつ、単板検知器5によつて前端部と後端部の不良部分を検知し、その信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刄2を截断動作させて、有寸截断するようにした単板自動截断装置において、前記截断刃の直後で、該截断刃と搬出コンベアの間に、該截断刃の截断動作毎に開閉作動し、前端及び後端の截断屑と有効単板の通路切換え動作を行う選別開閉体3を、単板搬入方向と逆方向に向けて備え、前記単板検知器からの検知信号によつて、截断刃が前端截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとを、選別開閉体により連絡して単板の通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように、前記開閉体及び截断刃の駆動機構を自動的に制御するように構成したことを特徴とする単板自動截断選別装置。

(別紙図面(一)参照)

三  審決の理由の要点

1(一)  本件発明の要旨は、昭和五一年五月七日付手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の載に基づく前項記載のとおりである。

(二)  ところで、本件発明の願書に添付した明細書又は図面(以下「願書添付の明細書又は図画」という。別紙図面(二)参照)には、次の事項が全く記載されていない。

(1) 単板検知器の信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させる構成についての具体的な実施例、

(2)(イ) 選別開閉体が截断刃の截断動作毎に開閉作動し、前端及び後端の截断屑と有効単板の通路切換え動作を行い、並びに、

(ロ) 検知信号によつて、截断刃が前端截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとを、選別開閉体により連絡して単板の通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように、前記開閉体及び截断刃の駆動機構を自動的に制御する構成

における経時的な構成、

すなわち、右(イ)においては截断動作毎に開閉作動するという経時的な構成、及び右(ロ)においては前端截断動作をした直後に……連絡し、後端截断動作の直後に……連絡を断つという経時的な構成(ただし、願書添付の明細書には「截断と同時に」という記載がある。)、並びに、

(3) 右(2)の(イ)及び(ロ)の構成についての具体的な実施例。そして、右経時的な構成及びそれについての具体的な実施例は、本件補正により補正されたものであり、これらのものが仮に慣用の技術であつたとしても、願書添付の明細書及び図面の記載からみて自明なことであるとはいえない。

したがつて、本件補正は、願書添付の明細書及び図面の要旨を変更するものであるから、特許法第四〇条の規定により、本件発明に係る特許出願は、昭和五一年五月七日にしたものとみなされる。

(三)  しかして、特公昭四九-一六三九六号特許公報(昭和四九年四月二二日出願公告。以下「第一引用例」という。別紙図面(三)参照)には、単板2を搬入、搬出の両コンベア1、1'により搬送しつつ、単板検知器3によつて前縁部と後縁部の不良部分を検知し、その信号により、単板の搬送を停止しかつクリツパーナイフ5、5'を截断動作させて、有寸截断するようにした単板の自動仕分装置において、該クリツパーナイフ5、5'の直後で、該クリツパーナイフ5、5'と搬出コンベア1'の間に、該クリツパーナイフ5、5'の截断動作毎に開閉作動し、前縁及び後縁の截断屑と有効単板の通路切換え動作を行う擺動連結杆6を、単板搬入方向と逆方向に向けて備え、前記単板検知器からの検知信号によつて、クリツパーナイフ5、5'が前縁截断動作をした直後に、搬入コンベア1と搬出コンベア1'とを擺動連結杆6により連絡して単板の通路を形成し、後縁截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベア1、1'の連絡を断つように前記擺動連結杆6及びクリツパーナイフ5、5'の駆動機構を自動的に制御するように構成したことを特徴とする単板の自動仕分装置が記載されている。

そこで、本件発明と第一引用例記載の装置とを比較すると、本件発明の「前端部」、「後端部」、「截断刃」、「選別開閉体」、「単板自動截断選別装置」は、それぞれ、第一引用例記載の装置における「前縁部」、「後縁部」、「クリツパーナイフ」、「擺動連結杆」、「単板の自動仕分装置」に相当してむり、用語上の相違はあるものの、各部片による作用効果は実質上差異がないものであり、しかも、その他の構成についても、両者は同一の構成であると認められる。したがつて、本件発明と第一引用例記載の装置とは、実質的に同一の構成を有しているものと認められる。

よつて、本件発明は、その特許出願前日本国内において頒布された第一引用例に記載された装置と同一というべきであるから、本件特許は、特許法第二九条第一項の規定に違反して特許されたものである。

2  のみならず、仮に、本件補正が願書添付の明細書又は図面の要旨を変更するものでないとしても、本件発明は以下のとおり特許を受けることができなかつたものである。

(一) 米国特許第二一二〇三一三号明細書(一九三八年六月一四日特許。以下「第二引用例」という。別紙図面(四)参照)には、ストリツプを所定の長さに切断しないで、截断装置をストリツプの損傷のありうるクロツプ端部すなわち前端部と後端部を除去することのみに適用する場合に、ストリツプを搬入、搬出の両コンベア2により搬送しつつ、検知スイツチ58によつてストリツプのクロツプ端部すなわち前端部と後端部を検知し、その信号により截断刃を截断動作させて、有寸截断するようにしたストリツプの自動截断装置に関し、前記截断刃の直後で、該截断刃と搬出コンベアの間に、該截断刃の截断動作ごとに開閉作動し、前端及び後端の截断屑と有効ストリツプの通路切換え動作を行うそらせ部材を、ストリツプ搬入方向と逆方向に向けて備え、前記検知スイツチからの検知信号によつて、截断刃が前端截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとをそらせ部材により連絡してストリツプの通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように、前記そらせ部材及び截断刃の駆動機構を自動的に制御するように構成したことを特徴とするストリツプ自動截断選別装置が記載されている。

また、特公昭四三-九一九三号特許公報(昭和四三年四月一五日出願公告。以下「第三引用例」という。別紙図面(五)参照)には、長さ不規則な単板10の凹凸状不要端部をマイクロスイツチ1によつて検知し、その不要端部を断刃16によつて自動的に断落させる単板自動断落装置が記載されている。

(二) そこで、本件発明と第二引用例記載の装置とを比較すると、本件発明の「選別開閉体」は第二引用例記載の装置の「そらせ部材」に相当し、これによる作用効果は実質上差異がないので、両者は、次の二点にむいて相違する外は、実質的に同一の構成を有しているものと認められる。

(1) 本件発明は、単板検知器によつて前端部と後端部の不良部分を検知するものであるのに対し、第二引用例記載の装置は、検知スイッチ58によつてストリツプの前端部と後端部を検知するものである点、及び、

(2) 本件発明は、単板の搬送を停止して截断刃に截断動作させるものであるのに対し、第二引用例記載の装置は、ストリツプを搬送状態で截断刃に截断動作させるものである点。

(三) 右(1)の相違点について検討すると、単板検知器によつて前端部と後端部の不良部分を検知するようなことは、第三引用例に記載されているように、本件発明の出願前公知のものであるから、第二引用例記載の装置における前記(1)の構成を本件発明における前記(1)の構成のようにすることは、当業者が容易に行いうる程度のことである。

右(2)の相違点について検討すると、一般に、板体を截断する場合に、板体の搬送を停止させて截断するようなことは機械工学上常套の技術である。したがつて、本件発明のように単板の搬送を停止して截断刄に截断動作させるか、第二引用例記載の装置のようにストリツプを搬送状態で截断刃に截断動作させるかの相違は、当業者が適宜に選択して行いうる慣用手段の域を出ないものと認められる。

しかも、本件発明の効果は、第二引用例及び第三引用例記載の装置がそれぞれ有する効果の総和以上のものがあるとも認められない。

したがつて、本件発明は、第二引用例及び第三引用例記載の装置から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第二九条第二項の規定に違反して特許されたものである。

3  よつて、いずれにしても、本件特許は特許法第一二三条第一項第一号の規定に該当するものとして無効とすべきものである。

四  審決を取消すべき事由

審決は、次の1のとおり、審判官でない者が審判(審決)に関与した違法があるから、取消されるべきであり、仮に、右取消事由が存しないとしても、審決は、2のとおり、誤つて本件補正が要旨変更に当たると判断した結果、本件発明の特許出願の願書提出の後に頒布された第一引用例を特許法第二九条第一項第三号に規定する刊行物として扱い、本件発明の新規性欠如の根拠とした点で誤りがあり、かっ、3のとおり、本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から当業者が容易に発明をすることができたものであるとした点で進歩性の判断に誤りがあり、違法であるから、取消されねばならない。

1  審判の合議体の構成

審決には、合議体の一員として尾仲一宗が関与し記名押印しているが、同人は、審決当時、既に審判官から審査官に転官していて、審判官ではなかつたから、審決には、審判官でない者がこれに関与した違法(特許法第一三六条第一項の規定違反。同法第一七一条第二項の規定のとおり確定審決に対する再審事由ともなる。)がある。

すなわち、審決に関与した尾仲一宗は、審決の日である昭和五五年一一月一一日より前の同年一〇月一日付で審判官から審査官(審査第三部)に転官している。確かに、弁護士法第二三条の二の規定に基づく照会に対する回答書(乙第七号証の三)には、同人は、右同日付で審判官に併任された旨記載されているが、人事異動を公示した同年一〇月二五日発行の特許庁公報(甲第二〇号証)には、右併任の事実は記載されていないし、また、同年一〇月一日当時の特許庁審判官の定員に欠員はなかつたので、同人を審判官に併任しうる余地は全くなかつた(併任も任命の一つであるから、欠員のない限りなしえない。)。したがつて、併任の辞令ないし人事記録等の提示もなく、右回答書の記載のみでは、同人が審判官に併任されたとの事実を認めることはできない。

2  本件補正が明細書等の要旨変更に当たるとした判断の誤り

本件発明が、本件補正前に日本国内において頒布された第一引用例に記載された装置と同一であることは争わないが、審決が願書添付の明細書又は図面に記載されていないとする(1)、(2)の(イ)及び(ロ)、(3)の各点は、次の(一)ないし(四)のとおり、いずれも右明細書又は図面に記載されているものであるから、本件補正は、願書添付の明細書又は図面の記載の範囲内での補正であつて、何ら右明細書又は図面の要旨を変更するものではないのに、審決は、誤つて本件補正が要旨変更に当たると判断した結果、本件補正の時を本件発明の特許出願日とみなし(いわゆる出願日の繰下げ)、本件発明の特許出願の願書提出よりも後に頒布された刊行物である第一引用例を特許法第二九条第一項第三号に規定する刊行物として扱い、本件発明の新規性欠如の根拠とした点で誤りがある。

なお、実施例を補充したからといつて、そのことが直ちに要旨変更となるというわけではなく、結局、願書添付の明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるか否かによつて、判断されるべきものである。

(一) 審決指摘の(1)の点について

審決指摘の(1)の点、すなわち、「単板検知器の信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させる構成についての具体的な実施例」は、以下のとおり、願書添付の明細書又は図面に記載されている。

(1) 願書添付の明細書には、本件発明の実施例の説明として、

「本発明においては第1図に例示するようにコンベア9により搬送された単板6を、単板加圧搬送体4例えばバー又はロールの案内によつて、刃物受兼単板搬送用ロール1と単板厚薄検知器5の間に挿入させ、単板6を送りつつ単板の厚薄を測定する。任意に設定した厚さが検知されるまで単板は送り続けられ、設定の厚さを検知した時に、その信号に作用して截断刃2が自動的に作動し、第2図に例示するように単板6の前端7が截断される。」(第二頁第二行ないし第一一行)

という、図面を引用した記載があり、次いで、

「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送るのである。前記の動作を反覆して単板を有寸単板に撰択截断を行う」(第二頁第一九行ないし第三頁第三行)

との記載があり、更に、

「また前記の厚みを検知した場合には直ちに空気又は電気信号により截断刃2を作動させ、その場合前記搬送用ロール1は回転のまま又は停止させても何れでも差支えない」(第三頁第九行ないし第一二行)、

「截断刃2、前記開閉体3は前記検知器5の作動に関連して作動出来るように設備し」(第四頁第二行、第三行)

との記載がある。

なお、願書添付の図面第1図、第2図、第4図には、截断刃2が刃物受兼単板搬送用ロール1に対し上下動し、単板6の端部を截断する動きが、矢印を付して示されている。

以上の各記載及び図面によれば、「単板検知器の信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させる構成についての具体的な実施例」は、願書添付の明細書及び図面に記載されているということができる。

(2) なお、審決指摘の(1)の点が、本件補正により補正された具体的な実施例、すなわち、「搬入、搬出の両コンベア9、9'と截断刃2の動作制御機構についての電気制御系統及びカム機構を用いた機械的制御系統」を指すものとすれば、確かに、願書添付の明細書及び図面には、それを直接表現する記載はない。

しかしながら、右明細書の従来技術の説明(第四頁第八行ないし第一四行)において指摘しているように、本件発明の特許出願前の「従来のベキヤ単板截断送り装置においては截断個所まで単板を移送するコンベアと截断後の単板を移送するコンベアの両者を間隔をおいて前後に設け、前者のコンベアに近接して投光管、受光管を設けて単板の前端、後端を探知するようにし、前者のコンベアの端部付近に刃受台、截断刃を備えて構成するものが存在」したこと、このことは、単板の自動截断装置といえば、搬入、搬出の両コンベア、単板検知器及び截断装置で構成され、単板検知器によつて単板の前端部、後端部の不良部分を検知し、該検知器の検知信号により前記不良部分を截断装置によつて自動的に截断する装置を指すものであるということが、本件発明の特許出願前に頒布された社団法人日本木材加工技術協会発行「木材工業」二一巻五号(甲第一四号証)、同二一巻八号(同第一五号証)、特公昭四三-九一九三号特許公報(同第八号証・第三引用例)、実公昭四三-一〇四七二号実用新案公報(同第一二号証)、特公昭四二-一九七九一号特許公報(同第一三号証)等に記載されていることによつて裏付けられることからみて、前記各制御系統の具体的な技術手段は、本件発明の特許出願時における慣用、周知の技術の応用にすぎず、何ら新規な技術事項を有しないものであることが明らかである。そして、願書添付の明細書には、「単板検知器の信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させる機能」が明記されているから、当業者であれば、右(1)掲記の願書添付の明細書の各記載に基づいて何の工夫も要することなく右各制御系統を任意に設計することが可能である。ちなみに、カムによる制御は、理工学社発行「初学者のための機構学」(甲第一六号証)、同「新編機械の素」(同第一七号証)等に記載されているように周知の技術となつていた。

したがつて、右各制御系統は、本件発明の特許出願についての出願公告に対する特許異議の決定(甲第五号証)で判断されているように、願書添付の明細書及び図面の記載からみて当業者にとつて自明な事項であつて、右明細書又は図面に直接記載されていなくても、これに記載された事項の範囲内とみることができるから、審決が、「これらのものが仮に慣用の技術であつたとしても、願書添付の明細書及び図面の記載からみて自明なことであるとはいえない。」としたのは誤りである。

(二) 審決指摘の(2)の(イ)及び(ロ)の点について

審決指摘の(2)の(イ)及び(ロ)の点、すなわち、「(イ)選別開閉体が截断刃の截断動作毎に開閉作動し、前端及び後端の截断屑と有効単板の通路切換え動作を行い、並びに、(ロ)検知信号によつて、截断刃が前端截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとを、選別開閉体により連絡して単板の通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように、前記開閉体及び截断刃の駆動機構を自動的に制御する構成における経時的な構成」は、以下のとおり、願書添付の明細書及び図面の本件発明の実施例についての記載によつて、表現こそ異なるものの、当業者であれば容易に理解できる程度に明らかにされている。

(1) (2)の(イ)の点

(ⅰ) 審決指摘の(2)の(イ)の点の経時的な構成に関しては、願書添付の明細書の特許請求の範囲第一項に、「前記検知器により有効な設定厚さ以上の有寸単板の前後端を自動的に検知し、その検知信号により自動的に截断刃を作動して有寸単板の撰択截断を行い、同時にそれと同調して自動的に撰別開閉体を開閉して前記截断した単板の端切れ、薄単板部分等排除する単板を落下させ、他の截断した有寸単板を前記開閉体を経て次工程へ搬送させて前記排除単板と有寸単板を各別に誘導撰別する」、同第二項に、

「複数個の単板厚薄検知器を配列して、任意設定の厚さを基準とした有効な設定厚さ以上を有する有寸単板の前後端を自動的に検出するようにし、該検出の信号により前記搬送用ロールに対して往復移動する截断刃を備えて有寸単板を撰択截断するようにし、前記検知、截断の作動に同調して自動的に開閉作動をする撰別開閉体を前記搬送用ロール及び前記截断個所に極めて近接した位置に、次工程送り機構と前記搬送用ロールへの送り機構との間隙を開口、閉止出来るように備えて」

との各記載があり、

同じく本件発明の実施例の説明として、

「截断の終了と共に撰別開閉体3例えば図示のようなバーが前記截断刃2の作動と同調して第3図に例示するように例えばコンベア9側へ回動して前記の隙間を閉止する。その閉止により、前記搬送用ロール1の回転によつて単板6は他のコンベア9'側へ平常に送られ、更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送るのである。

前記の動作を反覆して単板を有寸単板に撰択截断を行うと共に截断後の有寸単板と端切れ及び薄もの単板部分を各別に誘導撰別して処理するのである。」(第二頁第一三行ないし第三頁第五行)との記載(以下「本件記載部分」という。)があり、更に、

「前記開閉体3は前記検知器5の作動に関連して作動出来るように設備し、」(第四頁第二行、第三行)

との記載がある。

(ⅱ) 本件記載部分について詳述すれば、以下のとおりである。

(a) 願書添付の明細書には、本件記載部分に先行して、

「任意に設定した厚さが検知されるまで単板は送り続けられ、設定の厚さを検知した時に、その信号に作用して截断刃2が自動的に作動し、第2図に例示するように単板6の前端7が截断される。その截断された排除単板7は進行方向に設けた他のコンベア9'と前記送り込みのコンベア9の間の間隙から自重によつて自然落下する。」(第二頁第七行ないし第一三行)

との記載があることからして、本件配載部分中の「截断刃2の作動」が単板6の前端截断動作を指すものであり、また、本件記載部分冒頭の「截断の終了と共に……隙間を閉止する」との記載から、開閉体3が前端截断動作と同調して閉作動をすることが理解できる。

(b) 本件記載部分中の「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送るのである。」との記載は、これに先行する第二頁第二行ないし第一九行の記載との続き具合、及び同頁第二〇行以下において、前端を截断された「単板6」が前端と後端を截断された「有寸単板6'」に変わつていることなどからみて、後端截断の過程を説明したものであることが理解でき、したがつて、右にいう「截断」は「後端截断」を指すことが容易に理解できる。

(c) 本件記載部分中の「その閉止により……単板6は他のコンベア9'へ平常に送られ」との記載及び第三頁第六行ないし第九行の「開閉体3は截断時は第2図、第4図に例示するように開口状態で待機するが、截断と同時に第3図に例示するように閉止状態になつて単板の送りを案内する。」との記載から、前記前端截断後に、前端を截断された単板6は、コンベア9'へ送られるものであること、また、その状態における開閉体3の状態は閉止状態であること(第3図参照)が容易に理解できる。

更に、本件発明における截断選別の状況を例示した作動説明図によれば、前端の排除単板7及び截断された単板の後端部8が排除される場合に開閉体3が開状態を示し(第2図、第4図)、前端を截断された単板6が隣接する次のコンベア9'へ送られる場合に閉状態を示していること(第3図)、「有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送る」との記載、及び後端截断後の状態を示す第4図において、開閉体3が開状態であることなどから、開閉体3は、コンベア9'へ送られている前端のみを截断された単板6の後端截断と同調して、後端屑を排除すべく開作動をすることが容易に理解できる。

したがつて、本件記載部分中の「前記開閉体3の回動」とは、開閉体3の、截断刃の後端截断と同調した閉から開への作動を意味するものである。

(d) 以上(a)ないし(c)によれば、開閉体3は、前端截断と同調して閉作動をし、後端截断と同調して開作動をすることが明らかである。そして、本件記載部分中の「前記の動作を反覆して……処理するのである。」との記載のとおり、これらの截断動作、開閉作動が規則的に繰返されるのである。

(2) (2)の(ロ)の点

審決指摘の(2)の(ロ)の点の経時的な構成は、これを分析すると、

(ロ)の(ⅰ) 「前端截断動作をした直後に……連絡し、」

(ロ)の(ⅱ) 「後端截断動作の直後に……連絡を断つ」

経時的な構成ということになるが、これについては、前記(1)のとおりの願書添付の明細書の特許請求の範囲の各記載があり、また、右明細書に、本件発明の実施例の説明として、次のとおり、図面を引用した具体的な記載がある。

(ⅰ) まず、(ロ)の(ⅰ)の構成に関し、願書添付の明細書の図面の簡単な説明の項には、「第2図ないし第4図は本発明による截断撰別の状況を例示した作動説明図」との記載があり、第2図ないし第4図が添付されていて、本件発明の具体的な構成が図示されている。

そして、実施例の説明として、

「……設定の厚さを検知した時に、その信号に作用して截断刃2が自動的に作動し、第2図に例示するように単板6の前端7が截断される。」(第二頁第八行ないし第一一行)、

「截断の終了と共に撰別開閉体3例えば図示のようなバーが前記截断刃2の作動と同調して第3図に例示するように例えばコンベア9側へ回動して前記の隙間を閉止する。その閉止により、前記搬送用ロール1の回転によつて単板6は他のコンベア9'側へ平常に送られ、……」(同頁第一三行ないし第一九行)

との各記載がある。

すなわち、図面と右各記載を併せ通読すれば、右第2図は、検知信号によつて截断刃が前端截断動作をした状態を示し、その直後に、第3図に例示した状態へと開閉体3がコンベア9側へ回動し、搬入コンベア9と搬出コンベア9'とを開閉体3によつて連絡して単板の通路を形成することが記載されていることが理解できる。

(ⅱ) 次に、(ロ)の(ⅱ)の構成に関し、願書添付の明細書に、実施例の装置のその後の動作について、

「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送るのである。」(第二頁第一九行ないし第三頁第一行)

との記載があり、第3図の状態で、前端を截断された単板6が右方向に送られ、その後端を截断されて有寸単板6'のみが隣設する次のコンベア9'へ送られる動作が説明されている。一方、前記(1)(ⅱ)の(a)ないし(a)に詳述したように、開閉体3は前端截断と同調して閉作動をし、後端截断と同調して開作動をするが、これらを考慮すれば、第4図は、後端截断が行われ、開閉体3が開作動をした状態を示していることが理解できる。

その結果、第4図における有寸単板6'の後端部の移動位置及び截断排除された後端部8の落下位置から判断して、後端が截断された後の僅かな時間に、開閉体3が搬入、搬出両コンベア9の連絡を断つ位置に開作動をすることが容易に理解できるのである。

このことは、前端、後端の順序で截断が規則的かつ必然的に繰返し行われる有寸截断において、「自動的に単板の任意設定厚さの基準より薄い部分、欠落部分を撰択截断、除去し、有寸取り単板を撰別して次工程へ支障なく送りこむことを可能化」するという本件発明の目的(第一頁第一三行ないし第一六行)からも明瞭に理解できるところである。

(三) 審決指摘の(3)の点について

審決指摘の(3)の点、すなわち、「(2)の(イ)及び(ロ)の構成についての具体的な実施例」は、以下のとおり願書添付の明細書及び図面に記載されている。

(1) 前記(二)で指摘した願書添付の明細書及び図面の記載のうち、本件発明の実施例を説明する記載は、審決指摘の「(2)の(イ)及び(ロ)の経時的な構成についての具体的な実施例」にそのまま当てはまるものである。

(2) なお、審決指摘の(3)の点が、本件補正により補正された具体的な実施例、すなわち、「選別開閉体3の動作制御機構についての電気制御系統及びカム機構を用いた機械的制御系統」を指すものとすれば、確かに、願書添付の明細書及び図面には、それを直接表現する記載はないが、前記(一)(2)記載と同じ理由により、右各制御系統も、願書添付の明細書及び図面の記載からみて当業者にとつて自明な事項であつて、右明細書又は図面に直接記載されていなくても、これに記載された事項の範囲内とみることができる。

(四) 被告の主張に対する反論

(1) その(一)において、被告が「審決が要旨変更に当たると判断した点」として主張するところは、審決の理由に沿つたものではなく、本件補正後の明細書の実施例の記載にある構成部材と単板の関連動作の時期と順序に関する問題と、勝手にいい換えて論じるものであつて、失当である。

したがつて、右主張に基づくその(二)の主張は意味のないものであるが、次の(2)ないし(4)において念のため反論を加える。

(2) その(1)(Ⅳ)において、被告は、本件補正後の明細書の記載における装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序の要約説明として、単板搬送の停止について「前(後)端截断回路から発せられ制御器を経て伝えられる前(後)端截断信号による単板搬送の停止」というように、右明細書の発明の詳細な説明中の実施例に示されている電気制御系統を付加しているが、右明細書の特許請求の範囲には右実施例のように限定する記載はない。

(3) その(2)において、被告は、願書添付の明細書には、装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序について、前端截断時と後端截断時とを区別する記載はなく、全く同じである旨主張する((Ⅳ))が、以下のとおり誤りである。

(ⅰ) その(ⅱ)において、被告は、被告主張の第一の「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて」という説明は、後端截断時における各部材と単板の関連動作の順序を示すとみるべきであるから、後端截断時には、単板後端不良部分の検知、截断刃による単板後端の截断、後端屑の落下、開閉体の回動という順序で関連動作が行われることになると主張するが、右第一の説明は、前端截断時の動作の説明を受けて後端截断時における各部材と単板の関連動作を概括的に説明したにすぎない(「検知」、「截断」、「落下」の各動作に「単板6の」という語が掛かつていて、単板6を対象とする関連動作がひとまとめにされ、開閉体の関連動作と「及び」をもつて並列に記載されている。)とみるべきであり、関連動作の順序までも示すものではない。なぜなら、願書添付の明細書及び図面を実質的に検討すれば、後端屑の落下と開閉体の回動の順序は右説明の順序と逆になることが明らかであるからである。

すなわち、前記(二)(1)(ⅱ)の(a)ないし(d)のとおり、開閉体3は、前端截断と同調して閉作動をし、後端截断と同調して開作動をするものであり、しかも、後端屑は、前端屑が前端截断と同時に自重で落下するのと異なり、後端截断後、搬送ロール1の回転によつてコンベア9、9'の間の間隙へ送られてから落下するから、截断刃2の後端截断動作後、時間的間隔をおいて落下することになる。一方、開閉体3は、截断刃2の後端截断動作と同調して回動するものである。したがつて、「開閉体3の回動」は、実際には「後端屑の落下」の前になるのである。

後端截断時の動作を要約すると、第3図のように単板6が搬出コンベア9'側へ送られる状態で検知器5が単板6の設定厚さにおける不足を検知し、第3図と第4図の間の時点で、両コンベア9、9'の隙間を閉じた状態で截断刃2が往復昇降して後端不良部分を截断し、開閉体3は、第3図の閉状態から第4図の開状態へ回動して隙間を開き、両コンベア9、9'の連絡を断ち、第4図に示すように、截断された後端部8はコンベア9、9'の隙間から落下し、有寸単板6'のみが搬出コンベア9'へ送られ、開閉体3は続いて送られる単板の前端截断に備える、ということになる。

仮に、右第一の説明が、後端截断時における各部材と単板の関連動作の順序を示すものとすれば、前端截断後にいつたん閉止した開閉体が後端截断前に再び開口することになる。しかし、開閉体は、前記のとおり截断刃2の截断動作に同調して回動するものであるから、前端截断後にいつたん隙間を閉止する状態になつた後に、次の截断すなわち後端截断前に、截断刃の截断動作に同調することなく勝手に右隙間を開口すべく回動することはありえない(閉止位置に拘束される。)。前端截断後の開閉体の状態(閉)と後端截断前の開閉体の状態(閉)は同一であり、同様に、後端截断後の開閉体の状態(開)と前端截断前の開閉体の状態(開)も同一とたるのである。また、被告主張のように開閉体が後端截断前も開口状態で待機しているとすると、開閉体は截断刃の後端截断の動作に同調して隙間を閉止すべく回動して、後端屑をも搬出コンベア側へ案内することになり、前記本件発明の目的((二)(2)(ⅱ)末尾)と矛盾することになる。

(ⅱ) 次に、被告は、被告主張の第二の「なお前記の開閉体3は截断時は第2図、第4図に例示するように開口状態で待機する」という説明は、「開閉体3は、前端截断時には第2図に示すように、後端截断時には第4図に示すように、開口状態で待機する」ということである旨主張するが、この主張は、右(1)と同様、開閉体の作動順序を誤つた点で失当であるし、更に、次の点からみても失当である。

〈1〉 第二の説明が、後端截断時の説明及びそれより前の前端截断時の説明のあとにくる文章であるからといつて、必ずしも、その「截断時」が被告主張のように前端截断時、後端截断時の双方を含む意味になるとは限らない。

〈2〉 第二の説明は、接続詞「が」によつて後続の「截断と同時に第3図に例示するように閉止状態になつて単板の送りを案内する。」との記載に密接に結びつき、なお書を構成しているのであるから、このなお書全体で何を説明しているかをまず判断すべきところ、このなお書全体は、その前に既に説明済みの前端截断時と後端截断時における開閉体の作動を今一度説明する記載とみるべきではなく、開閉体の作動のうち特に注意したい事項を説明する記載とみるべきである。

〈3〉 その特に注意したい事項とは、「開閉体3は、截断する前は開口状熊で待機しているので、そのままの開口状態を維持し続けるとすれば、搬送されてくる単板はすべて開閉体3の下方へと進行し排除されてしまう。しかし、前記開口状態で待機するにもかかわらず、屑のみが截断排除され、該屑を截断排除した単板(有効部)が搬出コンベア9'へと送られるのは、単板が検知されて截断が行われると開閉体3が回動して閉止状態になり、単板の送りを案内すること、つまり、開閉体3がかように開から閉の作動をすることに起因する。」ということである。そして、第2図、第4図及び第3図の語は、「例示するように」という語のあとにくる「開口状態」又は「閉止状態」にかかる単なる修飾語であつて、右「開口状態」又は「閉止状態」における開閉体3の図示の位置のみを例示するために引用されたものである。

そして、各図面の示す状態を整理して述べれば、第2図は、前端截断が終了し、開閉体3が回動する前の状態を、第3図は、前端を截断された単板6が、閉止した開閉体3により搬出コンベア9'側へと案内されている状態を、第4図は、有寸単板6'の截断された末端が截断刃2の真上より搬出コンベア9'側へ進行しており、截断排除した後端部8が落下しつつあることから、「後端截断が終了し、開閉体3に開作動をさせ、更に有寸単板6'を幾分搬送した状態」(あるいは、「次に搬送されてくる単板の前端截断の待機状態」を示すものともいえる。)をそれぞれ示すものであるということになる。被告は、第3図について、開閉体は既に拘束を解かれているが、単板が開閉体と搬送用ロールの間に入つている間は元へ戻れないでその位置にとどまつているという可能性も十分考えられる旨主張するが、もしそうであれば、第4図の状態においても、開閉体は元へ戻れないはずであるが、第4図には、元へ戻つた状態(開口状態)が示されているし、また、後端截断前に開閉体が開口状態で待機するという被告の主張と矛盾する。

〈4〉 以上のようななお書全体の意味に加えて、「截断と同時に第3図に例示するように閉止状態になつて単板の送りを案内する。」との記載から明らかなように、送りを案内されるのは、単板であつて、有寸単板ではないこと(前後端を截断したものが有寸単板6'と指称されている。)、単板の送りを案内している状態を示す第3図において、単板6の前端が截断されていることから、右単板の送りの直前に行われる截断は前端截断であることが理解できる。

したがつて、第二の説明における「截断時」は、「前端截断時」の意味に解するのが相当であり、そのように解してこそ前後の文章が矛盾なく理解でき、本件発明の本質に合致するのである。

〈5〉 結局、前記なお書全体は、「前端截断をする前は、開閉体は開口状態で待機しているが、截断した後、閉止状態になつて単板の送りを案内する。」という意味である。

(ⅲ) また、被告は、願書添付の明細書の記載において、後端截断時開閉体が開口状態で待機する構成になつているのは、その必要性が大きかつたからであるとして、その理由を述べるが、根拠がない。

まず、截断刃を下に、ロールを上に配置する構成は、甲第三五号証、第三六号証にみられるように、技術的にみてそれほど珍しいものではなく、現実の実施品としては一般的ではないとしても、少なくとも技術的思想としてはかなり古くから考えられていたものである。また、搬入コンベア末端と開閉体先端の隙間は狭いほど好ましいが、ある程度は許容されるものであり、截断刃(通常二ないし一〇mm程度の厚み)が開閉体に当たらないように開閉体を截断刃の厚み分だけ搬出側へ控えることによる隙間(截断刃が上の、ごく普通の截断装置でもこの隙間は存在する。)が実用上問題になるようなことはありえない。なお、単板の乗り移りがより正確に行われるよう、搬出側部材を若干下つた位置に配置する程度のことは、当業者の常識である。

(Ⅳ) その(ⅲ)において、被告は、単板前後端不良部分の検知についてみても、前端截断時と後端截断時とを区別する記載は全くない旨主張するが、有寸取り単板に選択截断する、いわゆる有寸截断とは、有効部を最大寸法とつて、その前後端を截断することを指すから、前端不良部分を検知する場合は、単板の無から有に変わる境界(設定した厚さを充足したこと)を検知し、後端不良部分を検知する場合は、単板の有から無に変わる境界(設定した厚さに不足したこと)を検知するという相違があるのであつて、その結果、有寸截断においては、単板前後端不良部分の検知について、前端截断時と後端截断時とを区別する思想が内在しているのは明らかである。このことは、願書添付の明細書の「有寸単板の前後端を検知させる」(第三頁第一四行)、「有寸単板の前後端を自動的に検知し」(特許請求の範囲第一項)、「有寸単板の前後端を自動的に検出する」(同第二項)との各記載によつても裏づけられるし、更に、前記のとおり、開閉体は検知に関連して開又は閉の作動をし、その開閉体は前端截断時と後端截断時とでは異なつた作動をするのであるから、前端検知の場合と後端検知の場合とが区別して記載されていることは明らかである。

なお、前端検知の場合と後端検知の場合とで弁別した信号を発することが記載されているとかいないとかの議論は、本件発明の要旨とは関係のないことである。

(Ⅴ) また、被告は、「厚みを検知した場合には直ちに空気又は電気信号により截断刃2を作動させ」との記載を引用し、検知が「直ちに」截断に結びつけられているので、検知装置と截断装置の間に制御器をおく予定はないとみるべきであるとし、前端截断時と後端截断時とを区別する考え方があつたとは到底いえない旨主張するが、右記載における「直ちに」は「作動させ」にかかる「速やかに」、「迅速に」という意味の語であつて、制御器をおくこととは全く関係がないし、右(Ⅳ)のとおり、単板の前端不良部分の検知と後端不良部分の検知は明らかに区別されている。

そもそも、願書添付の明細書の特許請求の範囲の記載においては、検知器の検知信号をどのような制御手段によつて截断装置に伝えるかについてまで限定する記載はないのであるから、制御器をおく予定があるとかないとかの議論は、本件発明の要旨とは関係がない。

(Ⅵ) その(Ⅳ)において、被告は、特許請求の範囲第一項は、動作の順序を示す記載にはなつていない旨主張するが、特許請求の範囲には必ずしも諸部材の動作の時期と順序をそのまま記載しなければならないというわけではなく、特許請求の範囲の記載全体、明細書及び図面の記載からみて、それが当業者に理解できるように記載されていればよいのである。なお、特許請求の範囲第一項における「前後端の検知」と「開閉体の開閉」とは、動作の対応が逆になつているが、開く動作と閉じる動作が繰返し行われることを一括して表現する場合、閉じる動作が先であつても、「開閉」という語が用いられるのであつて、「閉開」とはいわない。そして、「開閉」は、開又は閉の一方向だけの意味で用いられていることは明らかである。

また、被告は、願書添付の明細書の第三頁第九行ないし第一二行の記載が、単板搬送の停止を示すものとしても、その場合における搬出入コンべアの停止。運行再開、更に開閉体の開又は閉の作動との時期的関連は一切記載されていない旨主張するが、単板の搬送を停止してすることは慣用、自明の事項であり、右記載は右慣用、自明の事項を意味するものであるし、特許請求の範囲の記載においても、右の上うな時期的関連についてまで限定されているわけではない。

(4) 被告のその(3)における主張が失当であることは、右(1)ないし(3)から明らかである。

3  本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から容易に発明をすることができたものとした進歩性判断の誤り

本件発明は、第二引用例及び第三引用例各記載の装置から当業者が容易に発明をすることができるものではないのに、審決は、次の(一)のとおり、第二引用例記載の装置の技術的内容の認定を誤つたため、これと本件発明との重要な相違点を看過し、その結果、(二)のとおり、第二引用例及び第三引用例各記載の装置から本件発明に想到することの困難性について判断を誤り、しかもその際、(三)のとおり、本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置の作用効果の総和以上の作用効果を奏する点を看過したものであつて、進歩性の判断に誤りがある。

(一) 第二引用例記載の装置の技術的内容の誤認及びこれに基づく本件発明との重要な相違点の看過

本件発明の特徴は、有寸截断を行う単板自動截断装置において、開閉体を備え、単板の不良部分を検知する同一単板検知器の検知信号が発せられる毎に、その検知信号により、截断刃に截断動作をさせかつ開閉体を截断動作の直後毎に一方向へ回動させるようにした点にあり、かかる技術的事項は、第二引用例及び第三引用例には開示されていないのに、審決は、次の(1)ないし(3)の点において、第二引用例記載の装置の技術的内容の認定を誤つたため、これらの点について本件発明と重要な相違が存することを看過したものである。

(1) 検知スイツチ58からの信号により截断刃に截断動作をさせるものであるとした点

第二引用例記載の装置は、検知スイツチ58からの信号により截断刃に截断動作をさせるものではない(両者にはそうした関連がない。)のに、審決は、「検知スイツチ58によつてストリツプのクロツプ端部すなわち前端部と後端部を検知し、その信号により、截断刃を截断動作させて、有寸截断するようにしたストリツプの自動截断装置に関し、」と認定して、検知スイツチ58からの信号により截断刃に截断動作をさせるものであると誤認し、そのため、単板の不良部分を検知する同一単板検知器からの同一の検知信号によつて、截断刃と開閉体の双方を関連して作動させる点に一つの特徴がある本件発明との重要な相違点を看過した。

(ⅰ) 第二引用例記載の装置において、検知スイツチ58からの信号によつて作動するのはそらせ部材のみであつて、截断刃は、検知スイツチ58とは関係なく、これとは別の検知スイツチである検知スイツチ65からの信号により、不良部分の検知とは無関係に截断動作をするものである。このことは、第二引用例第8図の制御図から明らかであり、このように、検知スイツチ58の信号によつてそらせ部材を作動させる電気制御と別に、検知スイツチ65の信号によつて截断刃に截断動作をさせる電気制御機構を有している点に、第二引用例記載の装置の特徴があるのである。

なお、その第1図ないし第4図の構成が、ストリツプの前端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を閉じて通路を切換え、ストリツプの後端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を開いて通路を切換える構成であるとの被告の主張は、第3図を見ると、後端截断の直前にそらせ部材の駆動機構が開作動を行いストリツプを突き上げている(第2図では、そらせ部材はストリツプの下面から離れている。)から、失当である。

(ⅱ) 第二引用例第8図の制御例自体、不良部分を検知する機構はもとより、その検知信号に基づき截断刃の截断動作とそらせ部材の開閉作動を同期させる制御機構を備えていないが、被告主張の、第8図の制御例を前後端クロツプ端部(不良部分)のみを截断、選別するのに適応させられた剪断機に適用できるように修正したという例の場合でも、第1図ないし第4図に従つも作動をさせることはできない。なぜなら、そこでは、検知スイツチ58の遅延リレーは一つしかなく、前端截断に設定時間を合わせれば、後端截断時も同じ遅延動作しかできず(後端截断時にも、後端縁が截断刃を通過してからそらせ部材が作動することになる。)、後端クロツプ端部の除去はできないからである。

そもそも、第二引用例記載の装置に使用されるのは、後記(2)のとおり、定尺截断の剪断機に限られ、第8図の制御回路をそつくりそのまま適用することができるのであるから、別の剪断機を使用することを前提にして第8図の制御例を修正することについて論ずるのは無意味である。

(2) 有寸截断の装置であるとした点

第二引用例記載の装置は、定尺截断の装置であつて、有寸截断(合板業界特有の技術用語であつて、「未処理単板から有効部分を最大幅(長)取つて、その有効部分の前後端を截断すること」を意味する。)の装置ではないのに、審決は、有寸截断の装置であると誤認し、そのため、有寸截断の装置である本件発明との重要な相違点を看過した。

(ⅰ) 第二引用例記載の装置は、その発明の名称にもあるように「截断端片のデイフレクター装置」に関するものであり、走行しているストリツプの端部から截断された破損切片や短尺截断端片を処理するために、走間剪断機と一緒に使用されるものである(第一頁左欄第一行ないし第四行)。

「走間剪断機(flying shear)」とは、「通常圧延されてコイル状に巻き取られた板を平らにしてから定尺に剪断する」勢断機(甲第九号証・株式会社平凡社発行「工業大事典」第四一九頁左欄第九行、第一〇行。なお、冒頭の「通常」の語は、「圧延されてコイル状に巻き取られた板を平らにしてから」に掛かる修飾語と解すべきである。)、ないしは、「非常に長くなつた材料を所定寸法あるいは何倍尺かに剪断するもの」(同号証第四一八頁右欄末行ないし第四一九頁左欄第一行)である。被告指摘の同号証第四一三頁右欄第一六行ないし第一八行の「被剪断材が動いている場合、その材料の進行方向と直角に剪断するものは走間剪断機と呼ばれている。」との配載は、「せんだんき 剪断機」の項の序文であつて、概略的な説明をしているにすぎないから、この記述をもつて走間剪断機の必要かつ十分な概念を定めることは早計といわねばならない。そして、「せんだんき 剪断機」の項の各論たる小項である「走行中の長尺の板材または棒材を目的の長さに剪断するもの」の中に前記のような記載があるのである(走間剪断機の定義を詳しく説明している項は、右の小項のみであり、他の小項はいずれも走間剪断機以外の剪断機について詳しく説明するものである。)。

すなわち、「回転ドラム型フライングシヤー」における剪断長さを決定する公式

〈省略〉(甲第一〇号証・昭和五五年五月一五日丸善株式会社発行日本鉄鋼協会編「鉄鋼便覧」)によれば、C(ミスカツト数)が一回当たりの剪断長さLを決定する要素になつていることが明らかであるが、このことは、走間剪断機(フライングシヤー)はストリツプの送り速度等で定められる最小定尺截断幅又は該最小定尺截断幅の整数倍の長さにしか截断することができないこと、換言すれば、有効部分と不良部分の境界の検知動作とは全く無関係に截断が行われること、及び、いつたん設定された剪断長さLは次にいずれかの変数を変えない限り絶対に変わらないことを意味している。被告は、甲第一〇号証の別の頁である乙第一二号証の一ないし四の「ホツトストリツプミル用フライングクロツプシヤー」についての記載を引用して、走間剪断機は決して定尺截断に限るものではないと主張するが、第二引用例記載の装置についての特許出願当時である一九三五年頃には、圧延されたバーの先、後端のクロツプカツトにも、定尺截断をする走間剪断機が使用されていたと認められる(甲第二七号証、第二八号証)から、本件発明の特許出願日より一二年も後に発行された乙第一二号証の一ないし四に「ホツトストリツプミル用フライングクロツプシヤー」に関する記載があるからといつて、それが第二引用例記載のフライングシヤーに含まれるとみることはできない。

したがつて、走間剪断機には、走行してくるストリツプの前後端の不良部分を検知し、その検知された不良部分のみを他の有効部分から切り離すという思想、すなわち、有寸截断の技術思想は全くなく(被告主張の乙第一〇号証記載の発明は、ストリツプの前端不良部分のみを他の有効部分から切り離すものであつて、関係がない。被告は、後端クロツプ端部截断についても、同様の思想の下に構成されると考えるのが常識であると主張するが、ストリツプの前端不良部分を検知する場合と後端不良部分を検知する場合とでは、検知のメカニズムが相違する。)、それ故、かかる剪断機と一緒に使用される第二引用例記載の装置に係るデイフレクター装置自体にも、検知された不良部分を完全に排除するといつた技術的思想が介入する余地は全くない。該デイフレクター装置は、前端においても後端においても、不良部分の検知とは無関係に截断される最先端(最後端)のシートをそれぞれ排除する機能しか有しておらず、検知された不良部分を正確に仕分けできるものではない。このことは、第二引用例記載の装置においては、ストリツプの前端縁がスイッチ65に当たると、定尺で截断動作を行う回転型剪断機が回転を開始して、前端の不良部分の位置に関係なく、前端截断が行われ、一方、後端截断も右最初の定尺截断によつて必然的に(後端の不良部分の位置に関係なく)行われること(第8図)からも明らかである(このように不良部分の検知とは全く無関係に作動しても、前端及び後端の不良部分(不良シート)を排除できるのは、ストリツプにおける不良部分が前端及び後端に限られており、その不良部分の位置もそれぞれ各端縁から数cm幅以内に存在することが保証されているからである。)。

(ⅱ) 第二引用例には、「Where the strip is to be used without being cut into lengths the shear is, of course, adapted to only remove these crop ends.」(「ストリツプを所定の長さに截断しないで使用する場合には、当然剪断機はこれらのクロツプ端部の除去のみに適用される。」第一頁右欄第七行ないし第一〇行)との記載があるが、この記載は、前記最小定尺截断幅の整数倍の長さLに截断する場合を意味するのであつて、かかる截断も前記定尺截断の概念に包含されること論を俟たない。

被告は、右記載を根拠にして、「ここに記載された自動截断選別装置において使用される走間剪断機は、一般的には定尺截断を行う剪断機であるが、定尺截断を行わず前後端のクロツプ端部のみを截断するように適応された剪断機も使用される旨記載されている」と主張するが、「without being cut into lengths」は、意訳すると「(ストリツプ)を一定寸法毎に截断しない」場合を意味するものであること、後に続く「ordinarily however, it is cut into prescribed lengths, and in such case the shear is adapted to …… a trailing crop end cut.」の主語も「the shear」であつて同一であり、同一の「a flying shear」(剪断機)を指すものと解すべきであること、「is adapted to」なる語には、「適応する」、「適合する」という意味はあるが、「使用される」という意味はないこと等からして、前記記載は、定尺截断を行わない別のタイプの剪断機の使用を想定したものではなく、同じ定尺剪断機によつてストリツプを一定寸法毎に截断しない場合、すなわち、定尺剪断機により別の截断方法(前端截断の後、最小定尺截断幅の整数倍の長さで截断すること)をする場合の剪断機の使用態様を説明しているにすぎないというべきである。このように解してこそ、右のような別の截断方法の場合の制御回路としても第8図の制御例をそつくりそのまま適用することができるのである。

なお、被告援用の乙第八号証、第九号証記載の剪断機は、ストリツプの前端を検知するだけであり、後端を検知するものではないから、非定尺截断を行うことはできず、結局、前端截断の後、最小定尺截断幅の整数倍の長さで截断するものというべきである。

(ⅲ) 被告は、前後端屑部分と有効部分を截断分離するという装置である以上、有効部分を最大幅取るという要請を含むものであるとして、結局、第二引用例記載の装置も技術的内容としては有寸截断と全く同じであると結論づけるが、前後端屑部分と有効部分との截断分離には、有寸截断と定尺截断があるのであり、有寸截断は、当然の前提として有効部分はなるべく最大幅を取り、前後端屑部分はできるだけ少なくしたいという要請を含んでいるけれども、定尺截断はかかる要請を含んでいない。けだし、有寸截断は、有効部分の寸法がまちまちで、不良部分を截断排除したのみでは製品としての寸法が得られないものを被処理材とし、かかる小幅の有効部分を複数枚寄せ集めて一枚の製品とする技術分野において用いられるものであるのに対し、定尺截断は、截断後直ちに製品としての寸法が得られるものを被処理材とするものであつて、小幅の有効部分を複数枚寄せ集めて一枚の製品とすることは予定していないからである。

現に、第二引用例記載の装置が対象とする金属ストリツプを扱う業界では、金属ストリツプは不良部分が少なく、また、素材自体再利用できることから、合板の製造におけるように小幅の有効部分を複数枚寄せ集めて一枚の製品にするようなことは行われておらず、走間剪断機といえば定尺剪断機を指すのが実情である。

また、自動有寸截断装置は、特殊な装置であつて、その必要性を認めている合板業界においてすら、昭和三八、九年頃に開発された技術であるから、第二引用例の頒布された一九三八年には、当然のことながら存在しえなかつた。

(3) そらせ部材が截断刃の截断動作の直後毎に開閉するとした点

第二引用例記載の装置においては、そらせ部材は(ⅰ)截断刃の截断動作の前後にわたる任意の時期に開閉作動するものであつて、截断動作の「直後」に限定されないものであり、(ⅱ)截断刃の截断動作「毎に」開閉作動するものではなく、前端截断と後端截断に伴つて各一回のみ開閉作動するものであるのに、審決は、そのそらせ部材が截断動作の(ⅰ)「直後」(ⅱ)「毎に」開閉するものであると誤認し、そのため、開閉体が截断動作の直後毎に開閉する点に一つの特徴がある本件発明との重要な相違点を看過した。

(ⅰ) 第二引用例記載の装置においては、そらせ部材は、截断刃の前端截断動作の前後にわたる任意の時期に、搬入コンベアと搬出コンベアを連絡してストリツプの通路を形成し、後端截断動作の前後にわたる任意の時期に、右両コンベアの連絡を断つように、開閉作動するものであつて、裁断動作の「直後」に開閉作動するとは限らない。すなわち、そらせ部材は、截断動作の前後にわたつていつ開閉してもかまわないのであり、「截断動作の前に開閉した方が好ましい」との記載もあるぐらいである。

被告は、第二引用例記載の装置の基本的構成は、第1図ないし第4図とその説明によつて示されるとおり、ストリツプの前端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を閉じて通路を切換え、ストリツプの後端裁断の直後に、その截断位置でそらせ部材を開いて通路を切換えるという構成であつて、被告主張の変形例もこの原則から外れるものではないと主張するが、もし、前後端クロツプ端部のみを截断、選別する場合においてそらせ部材の作動が第1図ないし第4図とその説明に従うとすれば、前記(1)(ⅰ)のとおり、後端截断の直前にそらせ部材の駆動機構が開作動を行うものであるから、右主張は失当である。

(ⅱ) 本件発明にいう裁断刃の截断動作「毎に」とは、前端、後端、前端……というように反覆継続して截断動作の毎に必ず開閉体が開閉作動することを意味するが、第二引用例記載の装置は、走間剪断機による連続した定尺截断を前提にするものであり、一条のストリツプを製品化するために規格寸法に截断するものであるから、規格寸法に截断された全く同一の製品を分別するためにその截断動作毎にそらせ部材が開閉作動するということはありえず、そらせ部材は、前端截断(the firetregular cut)と後端截断(the last regular cut)に伴つて各一回のみ開閉作動するものである。

そして、ストリツプの前後端のみを截断する場合は、特殊な截断方法として説明されているのであつて、この特殊な截断方法が反覆継続して行われることは予想されないし、第二引用例にこのことを示す記載は存しない。

(二) 第二引用例及び第三引用例各記載の装置から本件発明に想到することの困難性についての判断の誤り

第二引用例及び第三引用例各記載の装置を組合せることは、次の(1)及び(2)のとおり、容易に想到しえないから、第二引用例及び第三引用例各記載の装置から本件発明に想到することは困難であるのに、審決は、この点の判断を誤つたものである。

(1) 第二引用例記載の装置は、(ⅰ)截断、選別の対象がストリツプであつて、単板ではなく、(ⅱ)定尺截断の装置であつて、有寸截断とは技術的分野を異にするから、単板を対象とし、有寸截断の装置である第三引用例記載の装置と組合せることは容易に想到しえない。

(2) 第二引用例記載の装置は、走間剪断機に使用すべき選別装置であり、第三引用例記載の装置は有寸截断装置であつて、それぞれ別の装置として機能するものであるから、本件発明のように有寸截断装置と選別装置を一体化した単板自動截断選別装置とすることは容易に想到しえない。

(三) 本件発明の奏する格別の作用効果の看過

本件発明は、次の(1)ないし(3)のとおり、第二引用例及び第三引用例各記載の装置の奏する作用効果の総和以上の格別の作用効果を奏するものであるのに、審決は、この点を看過したものである。

(1) 本件発明は、種々の長さの単板に対応した選別をすることができるという作用効果を奏するが、第三引用例記載の装置に係る有寸截断装置に、第二引用例記載の装置に係るデイフレクター装置を単に転用(又は付加)し、組合せても、種々の長さの単板に対応した選別をすることはできない。

すなわち、第二引用例記載の装置に係るデイフレクター装置は、あくまで、截断動作が規則的に行われる定尺截断装置に付加して使用するものであるから、截断動作が不規則に行われる有寸截断装置に付加して使用しても、確実に選別作動することができない。例えば、後端截断において、検知スイツチ58によるストリツプの後端縁の検知動作が、截断装置によるストリツプの截断よりも遅れる場合(截断装置からストリツプの後端縁までの距離が、截断装置から検知スイツチ58の位置までの距離より大きい場合)は、そらせ部材による有効部分と後端不良部分の選別ができない。

(2) 本件発明は、不良部分が中間部にある場合も選別することができるという作用効果を奏するが、第二引用例及び第三引用例各記載の装置を組合せたものは、不良部分がストリツプの中間部にある場合それを選別することはできない。右(1)と同じ理由に加え、そらせ部材8を作動させる検知スイツチ58がストリツプの端縁しか検知できないからである。したがつて、中間部に不良部分を有することの多い単板を選別の対象とすることはできない。

(3) 本件発明は、同一の検知器により、截断刃と開閉体を作動させるものであるので、確実かつ容易に截断動作と選別動作のタイミングを一致させることができるという作用効果を奏するが、第二引用例及び第三引用例各記載の装置を組合せたものは、截断装置を作動させる検知器とそらせ部材を作動させる検知器をそれぞれ別個に備えているから、截断動作と選別動作のタイミングを一致させることは困難である。

第三  被告の答弁及び主張

一  請求の原因一ないし三の各事実は認める。

二  請求の原因四の審決を取消すべき事由についての主張は争う。

以下のとおり、審決には原告主張の違法の点は存しない。

1  審判の合議体の構成について

審決には審判官でない者がこれに関与した違法があるとの主張は争う(乙第七号証の三)。

2  本件補正が明細書等の要旨変更に当たるとした判断について

審決指摘の(1)、(2)の(イ)及び(ロ)、(3)の各点は、以下のとおり、いずれも願書添付の明細書又は図面に記載されていないから、審決が、これらの点を追加補充した本件補正をもつて要旨変更に当たると判断し、その結果、本件補正の時を本件発明の特許出願日とみなして、本件補正前に頒布された刊行物である第一引用例を特許法第二九条第一項第三号に規定する刊行物として扱い、本件発明は第一引用例に記載された発明と同一であるとして、同法第二九条第一項、第一二三条第一項第一号の各規定により本件特許を無効としたのは、正当である。

(一) 審決が要旨変更に当たると判断した点

審決は、本件補正後の明細書及び図面に記載され、願書添付の明細書又は図面に記載されていない事項を三項に分けて指摘するが、その内容は、「検知信号により、単板の搬送を停止し、再開し、截断刃に截断動作をさせ、更に開閉体に開又は閉の作動をさせ、有効単板と屑単板を選別する時期と順序」に関し、その時期と順序について本件補正後の明細書及び図面に記載された事項が願書添付の明細書又は図面には全く記載されていないことを指摘するものであり、右時期と順序こそ、本件発明の要旨たる特許請求の範囲の記載の内容であるから、本件補正が特許法第四〇条の規定にいう要旨変更に当たることは疑いのないところである(理由は、次の(二)において詳述する。)。

原告は、第二、四2(四)(1)において、被告の右主張は、審決の理由に沿つたものではない旨主張するが、審決指摘の三項の示す技術的内容は、右記載の時期と順序であるから、この時期と順序、特に特許請求の範囲の記載の重要な要件である開閉体の作動の時期と順序について、その記載の有無を論ずることは、決して審決の理由から離れることにはならない。

(二) 本件補正が要旨変更に当たる理由の詳細

本件補正が要旨変更に当たるものである理由を、以下に詳述する。

(1) 本件補正後の明細書及び図面の記載における装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序

本件補正後の明細書の記載(第六頁第一〇行ないし第九頁第二行)及び図面に従えば、「検知信号により、単板の搬送を停止し、再開し、截断刃に截断動作をさせ、更に開閉体に開又は閉の作動をさせ、有効単板と屑単板を選別する時期と順序」は、次の(1)ないし(Ⅳ)のとおりである。

(ⅰ) まず、前端不良部分截断時における諸部材と単板の関連動作の時期と順序は、以下のとおりである。

搬入コンベア9及び搬出コンベア9'が運行し、刃物受け体1が回動し、単板6は搬入コンベア9によつて截断位置へ送られる。数個の単板検知器5のそれぞれの接点5aのすべてが開路となつたとき、前端截断回路15から前端截断信号が制御器16に加えられる。この信号を受けて、制御器16は、間欠駆動装置12aと13aに信号を送つてこれらを制御する。

間欠駆動装置12aは、その信号を受けるまでは、電動機12の動力を搬入コンベア9、搬出コンベア9'及び刃物受け体1に伝達してそれらを運行させているが、右信号により右動力伝達を断つので、これらコンベア9、9'、刃物受け体1は、運行を停止する。

一方、間欠駆動装置13aは、制御器16からの信号により、電動機13の回転をカム軸14に伝達するようにし、カム軸14が半回転する。このカム軸14の半回転によりこの軸に一体に取付けられている截断用カム14a及び開閉体用カム14bも半回転し、第1図の状態から第2図の状態へと移る。

この截断用カム14aの半回転により、截断刃2は昇降一往復動するが、ほぼ九〇度回転した位置で最高位に達し、次いで旧位置に復する。一方、開閉体用カム14bの回転により、開閉体3は、第2図点線位置から実線位置に移るが、このカム14bと従節3aは、最初第1図の位置関係にあり、これが時計方向に回転するから、このカムの一八〇度回転の最終段階まで従節3aは動かず、したがつて、開閉体3は点線位置(第2図)にとどまり、回転の終わる直前に従節3aの足がカム14bの高いところへ上り外へ動くので、開閉体3が急に反時計方向に回つて第2図実線の位置へ移る。したがつて、開閉体の閉作動は、截断刃の単板截断の時期よりカム軸回転で四分の一近く遅れて行われる。

このカム軸14を半回転させて停止させるための制御の仕方についていえば、カム軸14が半回転して、カム軸14に取付けられたカム停止用凸片17aがカム停止用検知器17に触れると、その信号が制御器16に送られ、更に、制御器16から間欠駆動装置13aに信号が送られ、同装置が電動機13からの動力伝達を断つので、カム軸14は停止する。

カム軸14が停止する際、該カム軸14に取付けられた送り起動用凸片18bが送り起動用検知器18に接触し、該検知器18からの信号が制御器16を経て間欠駆動装置12aに送られ、間欠駆動装置12aは電動機12の回転を搬入コンベア9、刃物受け体1、搬出コンベア9'に伝え、これらコンベア、刃物受け体が運行を始め、第3図に示すように、単板6は開閉体3を経て搬出コンベア9'の方へ移りはじめる。

(ⅱ) 次に、後端不良部分截断時における諸部材と単板の関連動作の時期と順序は、以下のとおりである。

数個の単板検知器5のそれぞれの接点5aのどれか一つが閉路となつたとき、後端截断回路15aから後端截断信号が制御器16に加えられる。この信号を受けて、制御器16は、間欠駆動装置12aと13aに信号を送つてこれらを制御する。

間欠駆動装置12aは、搬入コンベア9、搬出コンベア9'及び刃物受け体1ヘの電動機12からの動力伝達を断つので、これらコンベア9、9'、刃物受け体1は、運行を停止する。

一方、間欠駆動装置13aは、制御器16からの信号により、電動機13の回転をカム軸14に伝達するようにし、カム軸14が再び半回転する。このカム軸14の半回転により、截断用カム14a及び開閉体用力ム14bも半回転し、第2図の状態から第4図の状態へと移る。

この截断用カム14aの半回転により、截断刃2は昇降一往復動するが、この動作は前端截断の際と同じである。一方、開閉体用カム14bの回転により、開閉体3は開作動をする。このカム14bと従節3aは、この動作の初めには第2図の位置関係にあり、これが時計方向に回転するから、このカムの一八〇度回転の最終段階まで従節3aの足はカムの高い曲線部分にのつていて、動かない。カムの回転の最終段階で従節3aの足が急にカムの低い曲線部分に移り内向きに動くから、開閉体3が急に時計方向に回つて第4図の位置に移るのである。したがつて、この開閉体の作動が截断刃の単板截断時期よりカム軸回転で四分の一近く遅れる点は前端截断の場合と同じであるが、開閉体の作動が開作動である点で前端截断の場合と異なり、そのためカムの後端截断時作用部分の曲線は前端截断時作用部分の曲線とは全く違う形状に作られている。

カム軸14が半回転すると、この軸に取り付けられたカム停止用凸片17aがカム停止用検知器17に作動し、その信号が制御器16に送られ、更に、制御器16から間欠駆動装置13aに信号が送られ、同装置がカム軸14に対する電動機13からの動力伝達を断つので、カム軸14は停止する。

カム軸14が停止する際、該カム軸14に取付けられた送り起動用凸片18aが送り起動用検知器18に接触し、該検知器18からの信号が制御器16を経て間欠駆動装置12aに送られ、間欠駆動装置12aは運行を停止していた搬入コンベア9、刃物受け体1、搬出コンベア9'の運行を再開させ、有効単板6'は搬出コンベア9'上を移行し、他方、搬入コンベア9上に残つていた後端屑は搬入コンベア9と開閉体3との間の開口部から落下する。

(ⅲ) 右(ⅰ)及び(ⅱ)から明らかなように、本件補正後の明細書及び図面の記載における装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序は、前端截断時と後端截断時とでは異なるものである。

前端截断時には、開閉体は開の状態で待機し、截断直後に閉作動をしなければならないのに対し、後端截断時には、開閉体は閉の状態で待機し、截断直後に開作動をしなければならない(そのため開閉体用カム14bの前端截断時の作用部分である曲線cと後端截断時の作用部分である曲線Dとは、形状を異にしている。)。そして、開閉体は、前端截断時には、前端截断回路15から発信された前端截断信号により、後端截断時には、後端截断回路15aから発信された後端截断信号により、それぞれ作動するように制御されている。

また、有効単板と屑単板との選別と装置構成部材の関連動作の時期と順序も、前端截断時と後端截断時とでは異なる。すなわち、前端截断時には、開閉体は開の状態で待機し、截断刃前方(搬出側)は開口部となつていて、搬入コンベア、刃物受け体が停止したとき単板の前端不良部分は開口部に張り出した状態で止つているから、截断と同時に前端屑は落下する。開閉体の閉作動、それに続く搬入、搬出両コンベア、刃物受け体の運行再開はその後である。ところが、後端截断時には、開閉体は閉の状態で有効単板の通路を形成しており、搬入、搬出両コンベア、刃物受け体が運行を停止したとき後端不良部分は截断刃の後方(搬入側)にあるから、後端屑は、截断と同時に落下できるわけではなく、截断後開閉体が開作動をして開口部を形成し、その後搬入、搬出両コンベア、刃物受け体が運行を再開して初めて開口部へ導かれて落下する。

(ⅳ) 以上により、本件補正後の明細書及び図面の記載における装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序を要約説明すると、前端截断に関連しては、「単板搬送中における単板前端不良部分の検知、前端截断回路から発せられ制御器を経て伝えられる前端截断信号による単板搬送の停止、前記信号により搬送停止と同時に始動する截断刃による単板前端の截断、截断と同時に前端屑落下、截断刃の復帰動作の最終段階における開閉体の閉作動、開閉体の閉作動完了と同時に単板搬送再開」という時期と順序であり、後端截断に関連しては、「単板搬送中における後端不良部分の検知、後端截断回路から発せられ制御器を経て伝えられる後端截断信号による単板搬送の停止、前記信号により搬送停止と同時に始動する截断刃による単板後端の截断、截断刃の復帰動作の最終段階にかける開閉体の開作動、開閉体の開作動完了と同時に単板搬送再開、搬送再開による後端屑の落下」という時期と順序ということになる。

(2) 願書添付の明細書及び図面の記載における装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序

願書添付の明細書の記載において、装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序についての実施例の説明といえるものは、第二頁第七行ないし第三頁第一二行の部分だけであるが、この記載と指示された図面とに従い、装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序について、前端截断時と後端截断時とを比較すると、次の(ⅰ)ないし(ⅳ)のとおりとなる。

(ⅰ) まず、前端截断時については、単板搬送中において単板前端不良部分を検知すること、その検知信号により直ちに単板前端を截断すること、前端屑は截断と同時に落下すること、截断の終了と共に開閉体が回動して開口部を閉止すること、その閉止及び単板搬送ロールの回転によつて有効単板を搬出コンベアへ送ること、以上のとおりの記載がある。

(ⅱ) 後端截断時については、第一に、「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて」(第二頁第一九行、第二〇行)、第二に、「なお前記の開閉体3は截断時は第2図、第4図に例示するように開口状態で待機する。」(第三頁第六行、第七行)という各説明がある。いずれの説明中にも後端截断時という文言はないが、これら文章の前後の状況、図面などから後端截断時の説明であることが理解できる。

右第一の説明は、後端截断時における各部材と単板の関連動作の順序を示すとみるべきであるから、後端截断時には、単板後端不良部分の検知、截断刃による単板後端の截断、後端屑の落下、開閉体の回動という順序で関連動作が行われることになる。原告は、第一の説明は、関連動作の順序までも示すものではない旨主張する(第二、四2(四)(3)(ⅰ))が、第一の説明は前端截断時の諸動作を順を追つて説明したのに続く文章であるし、時期と順序が重要な自動制御という事柄の性質からいつて、諸動作を順不同に並べることは考えられない。

右第二の説明は、右後端截断時の説明及びそれより前の前端截断時の説明のあとにくる文章であるから、その「截断時」は、前端截断時、後端截断時の双方を含む意味であり、それに続いて「第2図、第4図に例示するように」と記載されているが、その第2図は前端截断時の図であることが明記され(第二頁第九行ないし第一一行)、第4図は後端屑8が落下しはじめたばかりであることから後端截断時の図とみることができ、したがつて、第二の説明は、「開閉体3は、前端截断時には第2図に示すように、後端截断時には第4図に示すように、開口状態で待機する」ということであることが理解できる。

右第一の説明において、截断刃による「截断」の次に後端屑の「落下」が続く順序になつていることは、開閉体が截断前に開いていることを意味するので、第一及び第二の各説明は一致し、他に後端截断時の説明はないのであるから、願書添付の明細書及び図面の記載においては、開閉体は、前端截断時にも後端截断時にも開口状態で待機するものであることが確定できる。

原告は、第4図は、「後端截断が終了し、開閉体3による開作動をさせ、更に、有寸単板6'を幾分搬送した状態」を示すものと主張する(第二、四2(四)(3)(ⅱ)〈3〉)が、截断後開の状態に移つたばかりの状態を「開口状態で待機する」というはずはないから、第2図におけると同様、開閉体が(後端)截断時に閉作動をする直前の状態を示すものとみざるをえない。

また、原告主張の本件記載部分(第二、四2(二)(1)(ⅰ))冒頭の「截断の終了と共に……隙間を閉止する」との記載は、開閉体が閉止位置に達した後そのままその位置で後端截断時まで拘束されるということまでの説明にはなつていないし、「その閉止により、前記搬送用ロール1の回転によつて単板6は他のコンベア9'側へ平常に送られ」との記載も、願書添付の図面に記載された開閉体の特異な形状(本件補正により普通の形状に訂正されている。)、開閉体、截断刃、刃物受兼単板搬送用ロールの特異な配置関係(普通は搬送用ロールが下、開閉体、截断刃が上という配置である。)からすれば、前端を截断された単板の有効部分の先端が開閉体に乗り移つた後は、開閉体を開の状態にしても搬送に何の支障もないから、開閉体が閉止位置に後端截断時まで拘束されているとまで推定する根拠とはならない。有効部分が搬出コンベア9'側へ相当移動した段階でも開閉体が閉止位置にとどまつているように描かれている第三図も、開閉体は既に拘束を解かれているが、単板が開閉体と搬送用ロールとの間に入つている間は元へ戻れないでその位置にとどまつているという可能性も十分考えられるから、右と同様である(ただし、これらの図面が精確に描かれているものとしての議論は無理である。)。

右のように、願書添付の明細書及び図面の記載において、後端截断時開閉体が開口状態で待機する構成になつているのは、その必要性が大きかつたからである。というのは、截断刃を上に、刃物受兼単板搬送用ロールを下に配置する通常の構成では、前端截断屑がうまく排除できないという問題点があるので、願書添付の明細書及び図面の記載において、截断刃を下に、ロールを上に配置するという極めて珍しい配置形式をとつたのは、この問題点を極めて簡単に解決する(前端截断屑は自然落下する。)ためと考えられるところ、この場合には、搬入コンベア末端と開閉体先端との間に隙間をおくことは禁物である(第1図のように搬入コンベア9と開閉体3の閉止位置と搬出コンベアとがほぼ一直線上に並ぶ配置では、前端を截断された単板が開閉体に乗り移れず、隙間から落下する。)ので、搬入コンベア末端と開閉体先端との間に隙間がないようにするのが当業者の常識である(この種装置のメーカー、ユーザーにとつて重要な関心事である。)が、そうすると、後端截断を開閉体の閉の位置で行うのは、截断刃が開閉体に当つて不可能である(第1図及び第3図では、閉の位置で截断を行える隙間があるように見えるが、図が厳密に描かれていないというべきである。)から、後端截断時には開閉体を開口状態で待機させなければならないからである。

(ⅲ) したがつて、開閉体の截断刃その他の部材及び単板に対する関連動作は、前端截断時も後端截断時も同じということになる。本件補正後の明細書及び図面の記載では、開閉体の作動は本件発明における重要な要素であるから、前端截断時と後端截断時とで開閉体の作動が異なるというのであれば、当然後端截断について明示の記載がなされているはずであつて、その明示の記載がないということは、開閉体の作動は前端截断時も後端截断時も同じと発明者が考えていたからといわざるをえない。

単板前後端不良部分の検知についてみても、前端截断時と後端截断時とを区別する記載は全くない。単板検知器が複数個配列されていること(第三頁第一五行、第一六行)、「截断刃2、前記開閉体3は前記検知器5の作動に関連して作動出来るように設備し」(第四頁第二行、第三行)という記載はあるが、前端検知の場合と後端検知の場合とで弁別した信号を発するというようなことは、何ら記載されていない。

更に、検知と截断との関係について、「厚みを検知した場合には直ちに空気又は電気信号により截断刃2を作動させ」(第三頁第九行ないし第一一行)と記載されていて、検知が「直ちに」截断に結びつけられているので、検知装置と截断装置の間に制御器をおく予定はないとみるべきで、そうとすれば、前端截断時と後端截断時とを区別する考え方があつたとは到底いえない。

(Ⅳ) 以上のとおり、開閉体の作動、検知について前端截断時と後端截断時とを区別する記載はなく、その他の部材と単板の関連動作についても同様であるので、結局、願書添付の明細書及び図面には、装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序について、前端截断時と後端截断時とを区別する記載はなく、全く同じであるということができる。

右は、願書添付の明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づくものであるが、特許請求の範囲の記載の内容は、発明の詳細な説明の記載により明確になる筋合のものであるし、その特許請求の範囲の記載をみても、方法の発明(諸部材の動作の時期と順序を明らかにする。)である第一項(第二、四2(二)(1)(Ⅰ)参照)は、やはり、前端截断時と後端截断時とで何の区別もしていない。そして、開閉体の開閉作動が先に、屑の落下が後になつているが、前端截断時の順序とは明らかに逆であるから、これは、動作の順序を示す記載にはなつていないといわなければならない。なお、截断と同時に「開閉体を開閉」するとは、一截断毎に開閉体を閉じて開くということである。

更に、単板前後端不良部分截断の際、単板搬送を停止することについては、「検知した場合には直ちに……截断刃2を作動させ、その場合前記搬送用ロール1は回転のまま又は停止させても何れでも差支えない。」(第三頁第九行ないし第一二行)との記載があり、単板搬送用ロールの停止は述べられているものの、搬入コンベア、搬出コンベアの動作には全く触れられていないから、これをもつて、単板搬送を停止して截断することが示されているといえるか疑いなしとしないが、仮に、右記載が単板搬送の停止を示すものとしても、その場合における搬出入コンベアの停止、運行再開、更に開閉体の開又は閉の作動との時期的関連は一切記載されていない。

(3) 本件補正後の明細書及び図面の記載と願書添付の明細書及び図面の記載との比較

装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序について、右(1)の本件補正後の明細書及び図面の記載と右(2)の願書添付の明細書及び図面の記載とを比較すると、右関連動作の時期と順序が、本件補正後の明細書及び図面の記載においては、前端截断時と後端截断時とで区別され、違うものとなつているのに対し、願書添付の明細書及び図面の記載においては、前端截断時と後端截断時とで区別がなく、同じであるという点で決定的に相違する。

すなわち、本件補正後の明細書及び図面の記載においては、開閉体は、截断刃が前端截断動作をした直後に閉作動をし、後端截断動作をした直後には開作動をするものとして構成され、そのため、開閉体用カムのそれぞれの作用部分の曲線を異ならせ、前端検知の際は前端截断信号を、後端検知の際は後端截断信号を、それぞれ区別して発信し、前端截断時には必ず閉作動を、後端截断時には必ず開作動をするように構成されている。これに対し、願書添付の明細書及び図面の記載においては、前端截断時にも後端截断時にも開閉体は開口状態で待機し、単板検知器の検知、単板前後端の截断、前後端屑の落下、開閉体の回動という順序も同じであり、検知についてみても、前端の検知と後端の検知とを区別した記載は全然なく、その他明細書全体及び図面としても前端截断時と後端截断時とを区別して違うものとして説明した記載は全くない。

更に、単板搬送を停止する場合の他の各部材の動作との時期的関連、開閉体の開又は閉の作動の截断動作との時期的関連及び単板搬送停止、再開との時期的関連など、本件補正後の明細書及び図面では明確に示されているものが、願書添付の明細書及び図面には全く記載されていない。

このように、本件補正後の明細書及び図面において区別されて違うものとされている重要な点が、願書添付の明細書及び図面では全く区別されず、同じものとして記載され、また、構成部材と単板の関連動作の時期的関連について、本件補正後の明細書及び図面に記載されているものが願書添付の明細書及び図面に記載されていない以上、本件補正後の明細書及び図面に記載された構成部材と単板の関連動作の時期と順序は、願書添付の明細書及び図面に記載されていなかつたとみるより外はない。

(三) 原告主張の自明事項

なお、原告は、審決指摘の(1)及び(3)の点が、「搬入、搬出の両コンベア9、9'と截断刃2の動作制御機構」((1))及び「選別開閉体3の動作制御機構」((3))「についての電気制御系統及びカム機構を用いた機械的制御系統」を指すものであるとしても、それらは願書添付の明細書及び図面の記載からみて当業者にとつて自明な事項であつて、右明細書又は図面に直接記載されていなくても、これに記載された事項の範囲内とみることができる旨主張する(第二、四2(一)(2)及び(三)(2))が、審決が記載されていないと指摘したのは、右のような動作制御機構ではなく、前記の装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序である。

そもそも、動作制御機構は、装置構成部材と被加工物の関連動作が決まつて初めて決まるのであるから、本件補正後の明細書及び図面に記載されている装置構成部材と単板の関連動作の時期と順序が願書添付の明細書又は図面に記載されていない以上、補充された動作制御機構について、それが自明事項であるか否かを論ずる必要はない。

3  本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から容易に発明をすることができたものとした進歩性の判断について

審決には、以下のとおり、原告主張の誤認、看過、判断の誤りはなく、本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断に誤りはない。

(一) 第二引用例記載の装置の技術的内容

(1) 検知スイツチ58からの信号により截断刃に截断動作をさせるものであるとした点

第二引用例記載の装置においても、截断刃は検知スイツチ58からの信号に関連して截断動作をするものである。

(ⅰ) 審決が第二引用例に記載されていると認定した装置は、ストリツプの前後端クロツプ端部(不良部分)のみを截断する装置であつて、第1図ないし第4図記載の構成を備え、検知手段として検知スイツチ58と同等の前後端縁を検知する検知器を付加したものであつて、その外に截断位置検知のためのスイツチ(信号スイツチ65に相当)を備えるものではない。

第二引用例の第8図に示された定尺截断の場合においては、截断刃は直接にはスイツチ65により截断動作をし、検知スイツチ58は直接にはそらせ部材を作動させるが、その場合でも、第8図の制御例が第1図ないし第4図に示す構成に従うものであることは明らかであるから、截断刃の截断動作とそらせ部材の開閉作動が同期するように構成されていることは疑いがない。しかし、審決は、右定尺截断の場合ではなく、前後端クロツプ端部のみを截断、選別する場合を引用すると明示しているから、第8図の定尺截断の制御例をそのまま引用したとみることはできないのであつて、第8図の制御例を参照して、前後端クロツプ端部のみを截断、選別する場合における装置の検知手段として自明の事項として検知スイツチ58と同等の検知手段を備えるものが記載されていると認定したものというべきである。

審決が右のように検知手段として検知スイツチ58を挙げたのは、第二引用例に示されていると認めることのできる検知手段は、第8図の検知スイツチ58と同等の検知手段、すなわち、シートの前端又は後端から内側何程かの予め不良部分として決められた長さの位置で截断するために、シートの前端縁と後端縁を検知する手段であると判断したからであつて、その判断は当業者の常識からみて妥当である。また、後端をも検知するものとしたことは、第二引用例記載の装置に使用される走間剪断機が後記(2)のとおり定尺截断に限るものではなく、後端不良部分を除くことを目的とするものであるから、圧延されて出てくるストリツプの長さが一定にはなりえず、かなりのバラツキがある関係上、後端から内側何程かの長さの位置で截断するということでなければ目的に合致しないことからいつて、当然のことである。更に、截断位置検知のための別の検知スイツチを必要と考えなかつたことは、第1図ないし第4図の構成が、ストリツプの前端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を閉じて通路を切換え、ストリツプの後端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を開いて通路を切換える構成であり、截断、開閉同時作動、截断位置=開閉位置であるため、その検知には一個の検知スイツチで足りるとみるのが最も常識的な考え方であるから、当然のことということができる(なお、第3図において、そらせ部材がストリツプに接触しているのは、そらせ部材が下降回転の極限位置に達した瞬間の第2図の状態から、僅かに上昇方向に戻つた状態を示しているからであるが、それでも、そらせ部材が後端截断直前には水平に維持されていることに変わりはない。)。

(ⅱ) 前記(ⅰ)のとおり、第8図は、一般的な定尺截断の場合の制御例を示すものであり、定尺截断の場合ではなく、前後端クロツプ端部のみを截断、選別するのに適応させられた剪断機を使用する場合についての記載はないが、この後者の場合には、使用される剪断機が、前端クロツプ端部を截断した後停止し、後端クロツプ端部截断に当たつて再び始動するという機能を持つ点で前者の定尺截断の場合の剪断機と異なるのであるから、その差異を考慮して、第8図の制御例を後者の装置に適用できるように修正すればよいのであつて、そのようなことは当業者にとつて自明のことである。例えば、前端クロツプ端部截断の際は、ストリツプの前端縁が検知スイツチ58を通過した時このスイツチが作動し、遅延リレーによる遅延動作によつて適当な時点でそらせ部材を作動させ、このそらせ部材の作動に同期して截断が行われるように截断刃を作動させ、後端クロツプ端部截断の際は、ストリツプの後端縁が検知スイツチ58を通過した時このスイツチが作動し、遅延リレーによる遅延動作によつて適当な時点でそらせ部材を作動させ、このそらせ部材の作動に同期して截断が行われるように截断刃を作動させるように構成すればよい。原告は、この例では、検知スイツチ58の遅延リレーは一つしかないから、第1図ないし第4図に従つた作動をさせることはできない旨主張するが、前端截断と後端截断において、遅延リレーをそれぞれに準備することは、当業者の常識である。

(2) 有寸截断の装置であるとした点

第二引用例記載の装置は、技術的内容としては本件発明における有寸截断と同じである。

(ⅰ) 走間剪断機といえば常に必ず定尺截断機に限られるというわけではない。このことは、原告提出の甲第九号証にも、「被剪断材が動いている場合、その材料の進行方向と直角に剪断するものは走間剪断機と呼ばれている。」(第四一三頁右欄第一六行ないし第一八行)と記載されていることから明らかである。原告指摘の同号証第四一九頁左欄第九行、第一〇行の「通常圧延されてコイル状に巻き取られた板を平らにしてから定尺に剪断する」との記載は、冒頭記載のとおり「通常」であつて、すべて定尺截断のものであるとまで述べているわけではない。同号証第四一八頁右欄末行ないし第四一九頁左欄第一行の「非常に長くなつた材料を所定寸法あるいは何倍尺かに剪断するもの」との記載も、「走行中の長尺の板材または棒材を目的の長さに剪断するもの」なる項(すなわち、定尺に剪断する走間剪断機についての項)の中の説明であるから、定尺截断機以外のものについての説明がないのは、当然である。

甲第一〇号証についても、同じ書物の別の頁(乙第一二号証の一ないし四)には、「ホツトストリツプミル用フライングクロツプシヤー」という、明らかにフライングシヤーに属する機械の説明において「圧延されたバーの先、後端のクロツプカツトに使用される。」、「先、後端のクロツプの形状を検出、その形状に応じてクロツプの切り代を最適に調整し、歩留りの向上をはかつているところもある。」と記載されていて、走間剪断機が決して定尺截断に限るものでないことが明白に示されている。本件発明の特許出願前の刊行物(乙第一一号証の一ないし六)でも、前後端クロツプ端部のみを截断する走間剪断機と、シートを造るシヤー、すなわち、定尺截断用の走間剪断機が別のものとして区別されている。

また、原告は、走間剪断機には、走行してくるストリツプの前後端の不良部分を検知し、その検知された不良部分のみを他の有効部分から切り離すという、有寸截断の技術的思想は全くない旨主張するが、右のような技術は第二引用例より古い刊行物(乙第一〇号証)に既に記載されているから、右主張は誤りである。ただし、同号証記載の剪断機は、定尺截断用のものであるから、前端クロツプ端部の検知、截断しか記載されていないが、前後端クロツプ端部を截断する剪断機の場合においては、後端クロツプ端部截断についても、同様の思想の下に構成されると考えるのが常識である。

(ⅱ) 第二引用例には、ここに記載された自動截断選別装置において使用される走間剪断機は、一般的には定尺截断を行う剪断機であるが、定尺截断を行わず前後端のクロツプ端部のみを截断するように適応された剪断機も使用される旨記載されている(原告指摘の第一頁右欄第七行ないし第一〇行)。原告は、右記載は、最小定尺截断幅の整数倍の長さLに截断する場合を意味すると主張するが、走間剪断機といつても定尺截断に限るものでない以上、当業者としては、前後端クロツプ端部のみを除去するというからには、剪断機は、前端クロツプ端部を截断後停止し、後端クロツプ端部截断に当たつて再び始動するように制御される装置が使用されるとみるのが普通である。走間剪断機を右のように制御し、あるいは截断一回毎に始動、停止するのに適した装置が 本件発明の特許出願前周知であるからである(乙第八号証、第九号証)。なお、原告指摘の「the shear」も、走間剪断機一般を指すのであるから、特に同一であるとの記載がない以上、それぞれの作用に適した剪断機が用いられるという趣旨に解すべきである。

実際の圧延作業の実態をみても、圧延機(ストリツプミル)によつて圧延された長尺の鉄板(ストリツプ)を定尺寸法に截断しないで長尺のまま巻き取つてコイル状で販売する場合、素材は薄く引延ばされ、最終のストリツプの長さが一〇〇〇mにもなるものであるから、最初の圧延機に入れる素材の長さが仮に同じであるとしても、最終のストリツプの長さが同じになるとは到底いえず、したがつて、走間剪断機による後端截断について、前端截断後、定尺寸法(最小定尺截断幅)の整数倍の位置を予め決めておいてその位置で截断するという考え方は、後端不良部分を截断、排除するという目的に照らし、常識的でないことは明らかであり、そのつど後端不良部分を検知して截断する作業が行われるとみるのが自然である。

(ⅲ) 第二引用例記載の装置は、ストリツプなどの板材の前後端部分の損傷していたり不規則な形状をしている屑部分(クロツプ端部)を、有効部分から截断分離する装置に係るものであるが、前後端屑部分と有効部分を截断分離するという装置である以上、有効部分を最大幅(長)取るという要請を含み、かかる技術的思想を含むものであることは明らかであり、一方、本件発明における「有寸截断」も、検知手段、截断手段、及びそれらの関連構成を特定して実際上の最大幅を理論上の最大幅にどの程度近づけるか、ということを要件とするものではなく、有効部分を最大幅取るという一般的な目標を掲げただけのことであるから、前後端屑部分と有効部分を截断分離するということと、技術的思想としては同じことを述べるにすぎない。

結局、第二引用例記載の装置は、未処理の板材から有効部分を最大幅取つて、その有効部分の前後端を截断する技術的内容のものということができ、技術的内容としては有寸截断と全く同じであるから、被処理材についての概念を若干拡張して「有寸截断」と称しても、あながち誤りというべきほどのことではない。

(3) そらせ部材が截断刃の截断動作の直後毎に開閉するとした点

そらせ部材の作動は、截断刃の截断動作の「直後」「毎」の開又は閉作動である。

(ⅰ) 原告は、そらせ部材は截断動作の「直後」に開閉作動するとは限らない旨主張するが、その主張自体、第二引用例にそらせ部材が截断動作の直後に開閉作動する実施例が記載されていることを認めていることになるのであり、審決が引用するのも当然その実施例である。

原告指摘の「截断動作の前に開閉した方が好ましい」との記載は、正確には、「ストリツプの前端縁がそらせ部材の下に達するや否や、そして、剪断機による最初の截断がされる前に、そらせ部材が下方へ作動するように調整するのが好ましい。」(第三頁左欄第二一行ないし第二五行)ということであつて、ストリツプの走行速度が速い場合の変形例であり(截断が終わつてからそらせ部材が動き出したのでは有効部分に対する通路の切換えが間に合わないので、截断時より前にそらせ部材を動き出させるようにした方がよいという意味である。)、基本的構成は、第1図ないし第4図とその説明によつて示されるとおり、ストリツプの前端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を閉じて通路を切換え、ストリツプの後端截断の直後に、その截断位置でそらせ部材を開いて通路を切換えるという構成であつて、右変形例もこの原則から外れるものではない。この基本的構成は、まさに、そらせ部材の作動が截断刃の截断動作の「直後」の開又は閉作動であることを示すものである。

(ⅱ) 原告は、ストリツプの前後端のみを截断する場合は、特殊な截断方法として説明されているのであつて、この特殊な截断方法が反覆継続して行われることは予想されないと主張するが、圧延機から出たストリツプを前後端屑部分のみ截断して巻き取り、販売するのも、圧延板販売の一形態であるから、一回限りではなく、続いて同じ作業が行われるとみるのが普通であり、そらせ部材の開閉作動は截断動作「毎に」反覆継続して行われるというべきである。

(二) 第二引用例及び第三引用例各記載の装置から本件発明に想到することの容易性

本件発明は、第二引用例及び第三引用例各記載の装置から容易に想到しうるものである。

(1) 第二引用例記載の装置は、主としてストリツプを截断、選別の対象とするものであるが、それに限るものではなく、また、前記(一)(2)のとおり技術的内容としては本件発明における有寸截断と同じ技術であり、そして、走行中のシートの前後端不良部分のみを截断し、前後端屑部分とその中間の有効部分とを別々に処理する自動截断選別という作用に特徴を有する技術であるから、作用的にみて同じ作用をさせる目的の装置に対しては、被処理材は違つても転用できるとみるのが当業者の常識であるような技術であり、一方、第三引用例記載の装置は、走行中の単板につき、作用的にみて第二引用例記載の装置と同じ作用をさせることを目的とする装置であり、前後端の不良部分のみを截断して有効部分を大きく取ろうとする技術的内容においても共通するから、第二引用例及び第三引用例各記載の装置を組合せることは、当業者の容易に想到しうるところである。

(2) 仮に、前記(一)(2)の点について、第二引用例記載の装置が定尺截断の技術であり、一緒に用いられる走間剪断機は定尺截断にのみ適用される装置であつて、前後端のみを截断するとされている場合の後端截断も原告主張のとおり最小定尺截断幅の整数倍の長さに截断することを意味するものであるとしても、本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から容易に想到しうることに変わりはない。なぜなら、第二引用例の第1図ないし第4図とその説明によれば、ストリツプの前端截断と同時にそらせ部材が開口部を閉じ、ストリツプの後端截断と同時にそらせ部材が開口部を開くという、截断刃の截断とそらせ部材の開閉との同位置における同時作動が強く印象づけられるので、前端截断と後端截断の時間的間隔が一定でなくても(長くても短くても)、換言すれば、前後端屑部分と自動的に截断、選別される中間の有効部分の長さが一定でなくても、また、長短不同のものが続いて走行してくる場合でも、第1図ないし第4図の構成を適用できることが直ちに理解でき、一方、第三引用例記載の装置は、走行中のシートの前端を截断し、次いで後端を截断し、前後端部分を屑、中間部を有効部分として別々に処理することを目的とする装置であるから、その別々の処理を人手によらず自動的に行うとすれば、右第二引用例の第1図ないし第4図の構成をそのまま適用すればよいのであり、そのように適用された装置と本件発明の装置との唯一の相違点である、截断の際単板の搬送を停止させるか否かの点は、必要に応じ選択できる事項に属するからである。

(三) 本件発明の奏する作用効果

本件発明の奏する作用効果には、第二引用例及び第三引用例各記載の装置の奏する作用効果の総和以上のものはない。

(1) 第二引用例記載の装置は、前記のとおり定尺截断を行うものではなく、截断されたストリツプの有効部分の長さは同じにはならず、それに対応した選別が可能であるから、第二引用例記載の装置において第三引用例記載の単板検知器をもつて置換したものは、本件発明と同等の作用効果を奏するものである。

(2) 原告は、本件発明は不良部分が中間部にある場合も選別することができるという作用効果を奏すると主張するが、右主張は誤りである。

すなわち、本件補正後の明細書の特許請求の範囲には、「単板検知器によつて前端部と後端部の不良部分を検知し」と記載され、発明の詳細な説明においても、「単板の前後に厚み不足、割れ、欠け等を有し、……前後の屑単板と有効単板の通路を切り換えて」(第一頁第一〇行ないし第一四行)など、単板の前後端の截断を示す記載のみがあり、中間の不良部分を截断除去することには全く触れられていない。願書添付の明細書(甲第三号証)では、中間不良部分を截断除去できることが作用効果として挙げられていた(第五頁第一一行ないし第一四行)が、それは、検知器が厚み測定のものに限られていたからであつて、その後、原告は、本件補正により、光電管による検知などあらゆる検知装置を含むように明細書を補正し、特許請求の範囲についても何の限定もない「単板検知器」としたので、中間不良部分の截断除去は必ずできるとはいえなくなつたため、明細書から中間不良部分の截断除去についての記載を除いたのである。したがつて、本件補正後の明細書の記載では、本件発明の作用効果として、中間不良部分の截断除去を主張できないことは、原告もよく承知しているはずである。

更に、以上の補正の経緯に照らせば、「単板検知器」は、前端又は後端から予め不良部分として決められた長さの位置で截断するため、単板走行中にその前端縁と後端縁を検知するものも含むものと解されぬこともない。

(3) また、原告は、同一の検知器により截断刃と開閉体を作動させる構成にしたことによる本件発明の作用効果をもつて格別のものと主張するが、前記(一)(1)(ⅰ)のとおり、截断、開閉同時作動、截断位置=開閉位置とする以上、一個の検知スイツチとするのが最も常識的であり、審決の認定した第二引用例記載の装置もそのような構成のものであるから、右作用効果は、第二引用例及び第三引用例各記載の装置の総和以上のものではない。

第四  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、請求の原因四の審決を取消すべき事由の存否について判断するに、原告はまず、審判の合議体の構成に関する審決取消事由として、審決に合議体の一員として関与した尾仲一宗は、審決当時、既に審判官から審査官に転官していて、審判官ではなかつたから、審決には審判官でない者がこれに関与した違法がある旨主張する。

しかして、成立に争いのない甲第二号証、第二〇号証ないし第二二号証によれば、本件審決に合議体の一員として関与した尾仲一宗は、審決の日である昭和五五年一一月一一日より前の同年一〇月一日付で審判官から審査官(審査第三部)に転官した事実が認められる。しかしながら、一方、成立に争いのない乙第七号証の一ないし三によれば、同人は、右のとおり昭和五五年一〇月一日付で審査官に転官したものの、同日付で審判官に併任されたものであつて、昭和五五年八月一八日に本件審判事件について合議体を構成すべき審判官に指定された後、審決の日までその指定を解かれた事実はないことが認められ、右甲号各証及び甲第三二号証ないし第三四号証その他本件全証拠を検討しても、右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

したがつて、原告の右審決取消事由の主張は、理由のないことが明らかである。

三  次に、原告は、右審判の合議体の構成に関する審決取消事由が存しないとしても、審決は、誤つて本件補正が要旨変更に当たると判断した結果、本件発明の特許出願の願書提出の後に頒布された第一引用例を特許法第二九条第一項第三号に規定する刊行物として扱い、本件発明の新規性欠如の根拠とした点で誤りがあり、かつ、本件発明が第二引用例及び第三引用例各記載の装置から当業者が容易に発明をすることができたものであるとした点で進歩性の判断に誤りがあり、違法であるから、取消されねばならないと主張するので、まず、本件補正が要旨変更に当たるとした審決の判断が誤りであるか否かについて、以下に判断する。

1  審決が、本件補正後の明細書又は図面に記載され、願書添付の明細書又は図面には記載されていないと指摘する事項は、

(1)  単板検知器の信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させる構成についての具体的な実施例、

(2)(イ)  選別開閉体が截断刃の截断動作毎に開閉作動し、前端及び後端の截断屑と有効単板の通路切換え動作を行い、並びに、

(ロ)  検知信号によつて、截断刃が前端截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとを、選別開閉体により連絡して単板の通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように、前記開閉体及び截断刃の駆動機構を自動的に制御する構成

における経時的な構成、

すなわち、右(イ)においては截断動作毎に開閉作動するという経時的な構成、及び右(ロ)においては前端截断動作をした直後に……連絡し、後端截断動作の直後に……連絡を絶つという経時的な構成、並びに、

(3)  右の(2)の(イ)及び(ロ)の構成についての具体的な実施例

であり、いずれも、前記争いのない本件発明の要旨(本件補正後の明細書の特許請求の範囲の記載)に関するものであるが、これを要約すると、

単板の搬送を停止しかつ截断刃に截断動作をさせる構成の具体的な実施例((1))、及び截断刃の截断動作毎の開閉体の開閉作動による通路切換え動作により((2)(イ))、截断刃の前端截断動作の直後に搬入コンベアと搬出コンベアとを連絡し、後端截断動作の直後にその連絡を絶つ((2)(ロ))という経時的な構成、すなわち、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成とその具体的な実施例((3))

ということになる。

2  そこで、成立に争いのない甲第一号証(本件発明の特許公報)、第四号証(昭和五一年五月七日付全文補正明細書)により、本件補正後の明細書及び図面の記載を検討する。

(一)  本件補正後の明細書の発明の詳細な説明の記載(主として、第六頁第一〇行ないし第九頁第二行)及び図面によれば、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた装置構成部材の関連動作の構成は、次の(1)及び(2)のとおりであることが認められる。

(1) まず、前端(不良部分)截断時については、以下のとおりとなる。

搬入コンベア9及び搬出コンべア9'が運行し、刃物受け体1が回動し、単板6は搬入コンベア9によつて截断位置へ送られる。数個の単板検知器5のそれぞれの接点5aのすべてが開路となつたとき、前端截断回路15から前端截断信号が制御器16に加えられる。この信号を受けて制御器16は、間欠駆動装置12aと13aに信号を送つてこれらを制御する。

間欠駆動装置12aは、その信号を受けるまでは、電動機12の動力を搬入コンベア9、搬出コンベア9'及び刃物受け体1に伝達してそれらを運行させているが、右信号により右動力伝達を断つので、これらコンベア9、9'、刃物受け体1は、運行を停止する。

一方、間欠駆動装置13aは、制御器16からの信号により、電動機13の回転をカム軸14に伝達するようにし、カム軸14が半回転する。このカム軸14の半回転により、この軸に一体に取付けられている截断用カム14a及び開閉体用カム14bも半回転し、第1図の状態から第2図の状態へと移る。

この截断用カム14aの半回転(一八〇度回転)により、截断刃2は、昇降一往復動するが、截断用カム14aがほぼ九〇度回転した位置で最高点に達して前端截断を行い(同時に前端屑が落下する。)、次いで、下降して半回転の最終段階で最低点の旧位置に復する。一方、前端截断の後、開閉体用カム14bの半回転の最終段階に至つて、開閉体3の従節3aが開閉体用カム14bの曲線部分Cに沿つて外側へ動くので、開閉体3は反時計方向に回つて閉作動を行い、搬入コンベア9と搬出コンベア9'を連絡して単板の通路を形成する。

このカム軸14を半回転させて停止させるための制御の仕方については、カム軸14が半回転して、カム軸14に取付けられたカム停止用凸片17aがカム停止用検知器17に触れると、その信号が制御器16に送られ、更に、制御器16から間欠駆動装置13aに信号が送られ、同装置が電動機13からの動力伝達を断つので、カム軸14は停止する。

カム軸14が停止する際、該カム軸14に取付けられた送り起動用凸片18bが送り起動用検知器18に接触し、該検知器18からの信号が制御器16を経て間欠駆動装置12aに送られ、間欠駆動装置12aは電動機12の回転を搬入コンベア9、刃物受け体1、搬出コンベア9'に伝え、これらコンベア、刃物受け体が運行を始め、第3図に示すように、単板6は開閉体3を経て搬出コンベア9'の方へ移りはじめる。

(2) 次に、後端(不良部分)截断時については、以下のとおりとなる。

数個の単板検知器5のそれぞれの接点5aのどれか一つが閉路となつたとき、後端截断回路15aから後端截断信号が制御器16に加えられる。この信号を受けて制御器16は、間欠駆動装置12aと13aに信号を送つてこれらを制御する。

間欠駆動装置12aは、搬入コンベア9、搬出コンベア9'及び刃物受け体1への電動機12からの動力伝達を断つので、これらコンベア9、9'、刃物受け体1は、運行を停止する。

一方、間欠駆動装置13aは、制御器16からの信号により、電動機13の回転をカム軸14に伝達するようにし、カム軸14が半回転する。このカム軸14の半回転により截断用カム14a及び開閉体用カム14bも半回転し、第2図の状態から第4図の状態へと移る。

この截断用カム14aの半回転(一八〇度回転)により、截断刃2は、昇降一往復動するが、前端截断の際と同様、截断用カム14aがほぼ九〇度回転した位置で最高点に達して後端截断を行い、次いで、下降して半回転の最終段階で最低点の旧位置に復する。一方、後端截断の後、開閉体用カム14bの半回転の最終段階に至つて、開閉体3の従節3aが開閉体用カム14bの曲線部分Cとは異なる形状の曲線部分Dに沿つて内側へ動くので、開閉体3は、前端截断時とは反対に、時計方向に回つて開作動を行い、搬入コンベア9と搬出コンベア9'の連絡を断つ。

カム軸14が半回転すると、カム停止用凸片17aがカム停止用検知器17に作動し、その信号が制御器16に送られ、更に制御器16から間欠駆動装置13aに信号が送られ同装置がカム軸14に対する電動機13からの動力伝達を断つので、カム軸14は停止する。

カム軸14が停止する際、該カム軸14に取付けられた送り起動用凸片18aが送り起動用検知器18に接触し、該検知器18からの信号が制御器16を経て間欠駆動装置12aに送られ、間欠駆動装置12aは運行を停止していた搬入コンベア9、刃物受け体1、搬出コンベア9'の運行を再開させ、有寸単板6'は搬出コンベア9'上を移行し、他方、搬入コンベア9上に残つていた後端屑は搬入コンベア9と開閉体との間の開口部から落下する。

(二)  右(一)に認定したところにより、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成を整理すると、

前端截断時は、単板搬送中における前端不良部分の検知、前端截断回路から発せられ制御器を経て伝えられる前端截断信号による単板搬送の停止、前記信号により搬送停止と同時に始動する截断刃による単板前端の截断、截断と同時に前端屑落下、截断刃の復帰動作の最終段階における開閉体の閉作動、開閉体の閉作動完了と同時に単板搬送再開、という構成であり、

後端截断時は、単板搬送中における後端不良部分の検知、後端截断回路から発せられ制御器を経て伝えられる後端截断信号による単板搬送の停止、前記信号により搬送停止と同時に始動する截断刃による単板後端の截断、截断刃の復帰動作の最終段階における開閉体の開作動、開閉体の開作動完了と同時に単板搬送再開、搬送再開による後端屑の落下、という構成であるということになる。

そして、この構成は、本件発明の要旨たる本件補正後の明細書の特許請求の範囲の記載における「単板を搬入、搬出の両コンベアにより、搬送しつつ、単板検知器によつて前端部と後端部の不良部分を検知し、その信号により、単板の搬送を停止しかつ截断刃を截断動作させて、」「単板検知器からの検知信号によつて、截断刃が截断動作をした直後に、搬入コンベアと搬出コンベアとを、選別開閉体により連絡して単板の通路を形成し、後端截断動作の直後に、前記搬入、搬出の両コンベアの連絡を断つように」した構成に対応するものである。

(三)  また、同様に前記(一)に認定したところにより、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成についての具体的な実施例を整理すると、次の(1)及び(2)のとおりとなる。

(1) 前端截断時には、前端截断のための検知信号により制御器16は間欠駆動装置12aと13aを制御するが、そのうち、間欠駆動装置12aは、電動機12からの動力伝達を断つてコンベア9、9'、刃物受け体1の運行を停止させ間欠駆動装置13aは、截断用カム14a及び開閉体用カム14bが一体に取付けられたカム軸14を半回転させ、これにより、截断用カム14aは九〇度回転の位置で截断刃2に前端截断を行わせ、一方、開閉体用カム14bはその半回転の最終段階で従節3aを介して開閉体3に閉作動を行わせる。

カム軸14の半回転後の停止については、カム軸14に取付けられたカム停止用凸片17aがカム停止用検知器17に触れることにより、その信号が制御器16に送られ、更に制御器16から間欠駆動装置13aに信号が送られ、同装置が電動機13からの動力伝達を断つので、カム軸14は停止する。

(2) 後端截断時には、後端截断のための検知信号により制御器16は間欠駆動装置12aと13aを制御するが、そのうち、間欠駆動装置12aは、電動機12からの動力伝達を断つてコンベア9、9'、刃物受け体1の運行を停止させ、間欠駆動装置13aは、截断用カム14a及び開閉体用カム14bが一体に取付けられたカム軸14を半回転させ、これにより、截断用カム14aは九〇度回転の位置で截断刃2に後端截断を行わせ、一方、開閉体用カム14bはその半回転の最終段階で従節3aを介して開閉体3に開作動を行わせる。

カム軸14の半回転後の停止については、前端截断時におけると同様である。

本件補正後の明細書における具体的な実施例は、以上のような具体的構成により、右(二)の、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成を実現するものである。

3  次に、成立に争いのない甲第三号証により、願書添付の明細書及び図面の記載を検討する。

(一)  願書添付の明細書及び図面において、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた装置構成部材の関連動作の構成について記載されているのは、次の〈1〉ないし〈3〉の記載及び図面だけであつて、外には存しないことが認められる。

〈1〉(特許請求の範囲第一項)

「前記検知器により有効な設定厚さ以上の有寸単板の前後端を自動的に検知し、その検知信号により自動的に截断刃を作動して有寸単板の撰択截断を行い、同時にそれと同調して自動的に撰別開閉体を開閉して前記截断した単板の端切れ、薄単板部分等排除する単板を落下させ、他の截断した有寸単板を前記開閉体を経て次工程へ搬送させて前記排除単板と有寸単板を各別に誘導撰別する」

〈2〉(特許請求の範囲第二項)

「複数個の単板厚薄検知器を配列して、任意設定の厚さを基準とした有効な設定厚さ以上を有する有寸単板の前後端を自動的に検出するようにし、該検出の信号により前記搬送用ロールに対して往復移動する截断刃を備えて有寸単板を撰択截断するようにし、前記検知、截断の作動に同調して自動的に開閉作動をする撰別開閉体を前記搬送用ロール及び前記截断個所に極めて近接した位置に、次工程送り機構と前記搬送用ロールへの送り機構との間隙を開口、閉止出来るように備えて截断後の有寸単板と端切れ、薄もの単板部分を各別個に誘導撰別するように構成する」

〈3〉(発明の詳細な説明第二頁第七行ないし第三頁第一二行及び図面)

「任意に設定した厚さが検知されるまで単板は送り続けられ、設定の厚さを検知した時に、その信号に作用して截断刃2が自動的に作動し、第2図に例示するように単板6の前端7が截断される。その截断された排除単板7は進行方向に設けた他のコンベア9'と前記送り込みのコンベア9の間の間隙から自重によつて自然落下する。截断の終了と共に撰別開閉体3例えば図示のようなバーが前記截断刃2の作動と同調して第3図に例示するように例えばコンベア9側へ回動して前記の隙間を閉止する。その閉止により、前記搬送用ロール1の回転によつて単板6は他のコンベア9'側へ平常に送られ、更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンベア9'へ送るのである。

前記の動作を反覆して単板を有寸単板に撰択截断を行うと共に截断後の有寸単板と端切れ及び薄もの単板部分を各別に誘導撰別して処理するのである。

なお前記の開閉体3は截断時は第2図、第4図に例示するように開口状態で待機するが、截断と同時に第3図に例示するように閉止状態になつて単板の送りを案内する。また前記の厚みを検知した場合には直ちに空気又は電気信号により截断刃2を作動させ、その場合前記搬送用ロール1は回転のまま又は停止させても 何れでも差支えない。」

(二)  右(一)の、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた装置構成部材の関連動作の構成についての願書添付の明細書及び図面の記載により、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成を整理すると、以下のとおりとなる。

(1) まず、その〈1〉の特許請求の範囲第一項の記載は、「検知器による前後端の検知信号により自動的に截断刃を作動して截断を行い、同時にそれと同調して自動的に開閉体を開閉して排除単板を落下させ、有寸単板を開閉体を経て次工程へ搬送させて各別に誘導選別する」という目的的な概念を示しただけに止まるものであり、その〈2〉の特許請求の範囲第二項の記載も、「前後端を自動的に検出する信号により截断刃を往復移動させて截断し、検知、截断に同調して自動的に開閉作動をする開閉体により間隙を開口、閉止して、有寸単板と排除単板を各別に誘導選別する」という、結局右〈1〉の記載と実質的に同内容の目的的な概念を示しただけに止まるものであつて、いずれも、前端截断時と後端截断時とに分けて截断刃と開閉体の関連動作を時間的経過に従つて記載したというものではない。

(2) 次に、特許請求の範囲に記載された構成をより正確にかつ具体的に説明し、発明の内容を理解させるための役割を果すべき発明の詳細な説明の記載である〈3〉の記載についてみると、前端截断時については、単板の搬送中に前端不良部分を検知すること、その検知信号により截断刃が単板前端を截断すること、截断された排除単板(前端屑)は、截断と同時に搬入コンベアと搬出コンベアの間隙から自然落下すること、截断の終了と共に開閉体が回動して右間隙を閉止すること、その閉止及び単板搬送ロールの回転によつて有効単板を搬出コンべアへ送ること、が記載されている。

一方、後端截断時についての記載は、右〈3〉の記載中の、右前端截断時についての記載に続く

(イ) 「更に単板6の前記検知、截断、落下及び前記開閉体3の回動によつて有寸単板6'のみを隣設する次のコンべア9'へ送るのである。」(被告主張の第一の説明―被告の答弁及び主張二2(二)(2)(ⅱ)参照)

(ロ) 「なお前記の開閉体3は截断時は第2図、第4図に例示するように開口状態で待機する」(被告主張の第二の説明)

の各記載のみであつて、外には存しない。

右(イ)の記載によれば、後端截断時は、単板後端不良部分の検知、截断刃による単板後端の截断、排除単板(後端屑)の落下、開閉体の回動、という順序で関連動作が行われるものと認められる。

また、右(ロ)の記載は、前端截断時及び後端截断時の説明の後に続く文章であるから、その「截断時」は前端截断時及び後端截断時の双方を含む意であると解するのが自然であること、その第2図は、前端截断時の図であることが明記され(「第2図に例示するように単板6の前端7が截断される。」第二頁第九行ないし第一一行)、第4図は、後端屑8(第四頁第五行)が落下しはじめたばかりの状態を示しているから、後端截断時の図であると理解できることを考慮すれば、「開閉体3は、前端截断時は第2図に例示するように、後端截断時は第4図に例示するように、開口状態で待機する」という意味であると解するのが相当である。

そうすると、截断刃と開閉体の関連動作は、前端截断時と後端截断時とで同じということになる。

(3) 原告は、右(イ)の記載(被告主張の第一の説明)は、前端截断時の動作の説明を受けて後端截断時における各部材と単板の関連動作を概括的に説明したにすぎないとみるべきであり、関速動作の順序までも示すものではない旨主張する(請求の原因四2(四)(3)(ⅰ))が、右(イ)の記載は、前端截断時の動作を時間的経過に従つて説明したのに続く文章であるし、また、本件発明が「開閉体及び截断刃の駆動機構を自動的に制御する」(本件発明の要旨)という自動制御に係るものであるという性質上、関連動作の順序が極めて重要となることからいつて、後端截断時の関連動作の順序が前端截断時の関連動作の順序と異なるのであれば、その点が明記されてしかるべきであり、関連動作を概括的に説明するに止めたり、順不同に並べることは考えられないから、右主張は採用できない(右(イ)の記載自体、「単板6の前記検知、截断、落下」というように、前端截断時の動作の説明を援用する形で後端截断時の動作を要約して述べたものであることをみても、前端截断時と後端截断時とで関連動作が異なるとの認識があつたことは全く窺えない。)。

原告は、この点、願書添付の明細書及び図面を実質的に検討すれば、後端屑の落下と開閉体の回動の順序は右(イ)の記載の順序と逆になることが明らかである旨主張するが、その主張の前提である、開閉体3は後端截断と同調して開作動をするとの解釈は、右(ロ)の記載(被告主張の第二の説明)に照らして採りえないところである(前記〈3〉の発明の詳細な説明の記載中の前端「截断の終了と共に撰別開閉体……が……隙間を閉止する。その閉止により、前記搬送用ロール1の回転によつて単板6は他のコンペア9'側へ平常に送られ」との記載についても、これが、前端截断後に開閉体が閉止位置に達した後、そのままその位置に拘束されることまでも意味するものであることを示す記載は存しない。)から、右主張は失当である。

また、原告は、右(ロ)の記載(被告主張の第二の説明)に関し、第4図は、「後端截断が終了し、開閉体3に開作動をさせ、更に有寸単板6'を幾分搬送した状態」を示すものと主張するが、截断が終了した後、開閉体が開の状態に移つたばかりの状態を、「開閉体3は截断時は……第4図に例示するように開口状態で待機する」と表現することはありえないから、第4図は、開閉体が後端截断時に開口状態で待機し、截断終了後閉作動をする直前の状態を示すものとみざるをえない。原告は、この点、第2図、第4図は開口状態における開閉体3の図示の位置のみを例示するために引用されたものであるとか、第4図は、「次に搬送されてくる単板の前端截断の待機状態」を示すものともいえるとか、(ロ)の記載における「截断時」は「前端截断時」の意味に解するのが相当である旨主張するが、いずれも右に述べた理由により採用することができない。

(4) 以上によれば、願書添付の明細書及び図面の記載においては、截断刃と開閉体の関連動作は、前端截断時と後端截断時とで異なるところはなく、同じということになるのであつて、これが相違するものであると認めるに足る根拠となる記載は存しない。

(三)  そして、截断刃と開閉体の関連動作の構成を実現するための具体的な実施例(前記2(三)に対応するもの)は、願書添付の明細書及び図面には全く記載されていない。

4  しかして、前端截断時と後端截断時に語ける時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成について、前記2に説示した本件補正後の明細書及び図面の記載と前記3に説示した願書添付の明細書及び図面の記載とを対比すると、本件補正後の明細書及び図面の記載では、右の関連動作の構成が前記2(二)のとおり前端截断時と後端截断時とで異なるものであり、これを実現する具体的な実施例(前記2(三))によつて裏づけられているのに対し、願書添付の明細書及び図面の記載では、右の関連動作の構成が前記3(二)のとおり前端截断時と後端截断時とで異なるところはなく、同じものとされており、これを実現するための具体的な実施例も記載されていない。

右のように、願書添付の明細書及び図面において、時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成が、前端截断時と後端截断時とで異ならないものとされ、その関連動作の構成を実現するための具体的な実施例の記載も存しないことに照らせば、願書添付の明細書及び図面の記載においては、搬入コンベアと搬出コンベアの間隙を開口、閉止できる開閉体を設け、この開閉体を截断刃の截断動作に同調して開閉作動させ、有寸単板と屑単板を誘導選別することを示したにすぎず、本件補正後の明細書及び図面に記載された截断刃と開閉体の関連動作の構成からなり、これを実現するための具体的な実施例によつて裏付けられた本件発明すなわち本件補正後の明細書の特許請求の範囲記載の発明についての認識・把握がなかつたものといわざるをえない。

なお、前掲甲第四号証によれば、本件発明は、不規則な形状の小幅単板を屑と有効部分とに有寸截断し、截断と同時に、その截断位置で、前後の屑単板と有効単板の通路を切換えて、屑を自動的に排除し、有効単板だけを次工程へ搬出するようにした自動截断選別装置を提供することを目的とする(本件補正後の明細書第一頁第九行ないし第一九行)ものであることが認められ、また、原告の主張(請求の原因四3(二)(2))によつても、有寸截断装置と選別装置を一体化した単板自動截断選別装置を実現したこと自体も本件発明の重要な特徴の一つであることが窺われるから、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成こそは、本件発明の重要な構成要素というべきものであつて、この点について、願書添付の明細書及び図面に、前示のとおり本件補正後の明細書及び図面とは決定的に異なる記載があり、裏付けとなる具体的な実施例も記載されていない以上、本件補正後の明細書の記載における、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成は、自明の事項ということはできない。

5  以上のとおりであるから、願書添付の明細書及び図面には、本件補正により補正された事項のうち、少なくとも、前端截断時と後端截断時における時間的経過に従つた截断刃と開閉体の関連動作の構成とその具体的な実施例、すなわち、審決指摘の(2)の(イ)及び(ロ)並びに(3)の点は記載されていなかつたというべきであり、この点を補正した本件補正は、願書添付の明細書及び図面の要旨を変更するものといわなければならない。

したがつて、本件補正をもつて要旨変更に当たるとした審決の判断に誤りはない。

四  右のとおりである以上、審決が、特許法第四〇条の規定の適用により本件補正の時を本件発明の特許出願日とみなして、本件補正前に頒布された刊行物である第一引用例を同法第二九条第一項第三号に規定する刊行物として扱い、本件発明は第一引用例に記載された装置と同一であるとして(本件発明が第一引用例記載の装置と同一であることは原告も争わないところである。)、同法第二九条第一項、第一二三条第一項第一号の各規定により本件特許を無効としたのは、正当であり、したがつて、本件補正が要旨変更に当たらないとの仮定のもとに、本件発明は第二引用例及び第三引用例各記載の装置から当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の進歩性判断の当否について判断するまでもなく、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由のないことが明らかである。

五  よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔 裁判官 水野武 裁判長裁判官荒木秀一は、退官につき署名捺印することができない。 裁判官 竹田稔)

図面(一)

〈省略〉

図面(二)

〈省略〉

図面(三)

〈省略〉

図面(四)

〈省略〉

図面(五)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例